「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
CAR EMISSIONS DOWN UNDER
環境規制の強化でクリーンな車が市場戦略の要に GRZEGORZ CZAPSKI/SHUTTERSTOCK
<自動車業界特化型のカーボン・クレジット市場が動き出したオーストラリア。なんとか切り抜けたトヨタだが、今後も同じ手は使えない──>
オーストラリアが導入した燃費規制「新車効率性基準(NVES)」は、乗用車と小型商用車(ピックアップトラックやバンなど)に適用される新たな炭素通貨を生み出し、カーボン・クレジット市場を活性化させている。
メーカーは1年間で販売した新車について、二酸化炭素排出量の平均が基準値を下回るとクレジットを獲得し、上回るとデビット(負債)が積み上がる。デビットは、クレジットの余剰を保有するメーカーから購入するか、排出量に応じた罰金を払って清算する。この新制度の導入から半年余りで約1600万「NVESユニット(炭素通貨の単位)」のクレジットの余剰が生まれた。
オーストラリアは何十年もの間、自動車の二酸化炭素排出量に制限を設けておらず、先進国の中では自動車の環境規制が遅れていたが、昨年7月1日、ついにNVESが施行された。今後、排出量の上限は年々引き下げられて厳しくなる。
新制度の滑り出しで期待を抱かせる結果が出ている。2025年7月1日~12月31日に約62万1000台の新車が登録され、この期間に自動車メーカーの約70%が総排出量の目標を達成したのだ。
これらの新車が道路を走り続ける限り、大気中に排出される二酸化炭素は毎年19万~22万トン削減される計算になる。
なかでも比亜迪汽車(BYDオート)は、登録2法人が販売したバッテリー電気自動車とプラグインハイブリッド車で計630万ユニットのクレジットを獲得している。テスラは220万ユニットを獲得している。
意外なのはトヨタ自動車だ。約290万ユニットを獲得しているトヨタは、電気自動車(EV)に積極的ではない。代わりにハイブリッド車を市場に大量投入し、総排出量は以前から新しい規制の上限を大幅に下回っていた。
ただし、この優位性も、規制が年々厳しくなれば長くは続かない。いずれはトヨタも、プラグインハイブリッド車やバッテリー電気自動車への転換を迫られるだろう。
出遅れたメーカーの課題
一方、総排出量の目標を達成できていない大手メーカーは焦り始めている。現在、最も多くデビットを抱えているのはマツダで50万ユニットを超える。日産は約21万5000ユニット、スバルも同じくらいだ。
これらのメーカーは厳しい選択を突き付けられている。オーストラリアに出荷・販売する車種を根本的に変えるか、政府に罰金を払うか、あるいは競合からクレジットを購入するか。
新制度で負債を抱えるメーカーは、そのコストを消費者に転嫁する可能性が高い。つまり、二酸化炭素の排出量が多いメーカーの車は価格が高くなる。一方、クレジットが余る企業は売却し、その収益で車の価格を引き下げることもできるだろう。
これは「隠れた補助金」とも考えられる。新制度に苦しむメーカーの燃費効率の悪い新車を誰かが購入すると、他の誰かが購入する新型EVが安くなるというわけだ。競争が激しいオーストラリアの自動車市場で成功するには、もはや販売台数を増やすだけでは足りない。
自動車のカーボン・クレジット市場が始動した今、企業にとって最も高くつく選択は、行動を起こさないことだ。
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Hussein Dia, Professor of Transport Technology and Sustainability, Swinburne University of Technology
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
POINT(ニューズウィーク日本版SDGs室長 森田優介)
業界に特化した排出量取引は有効な手法なのか。EV市場は再び盛り上がるのか。自動車業界と言えば、米欧から最近入ってくるのは「環境規制後退」のニュースばかり。それだけにこの規制強化には注目です。
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