コラム

「国会議員の特権」旧文通費問題を根本解決したくない既得権益層は誰か

2022年05月31日(火)18時36分

調査研究広報滞在費の本質は「コズカイ」?

ところで、最高裁は5月25日、最高裁裁判官の国民審査で「在外投票」が認められていないことについて、戦後11例目となる法令違憲判決を出した。

「技術的な困難を回避するために、現在の取扱いとは異なる投票用紙の調製や投票の方式等を採用する余地がないとは断じ難い」として、在外国民を審査権行使から排除している現行国民審査法は、公務員の選定罷免権(憲法15条1項)及び最高裁裁判官審査制度(79条2項3項)に反するとともに、国会が制度改正を行うことが「必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠った」として、立法不作為の違法性に基づく国賠請求を認める判断を下したのだ。

ひるがえって旧・文通費が一定額を事前に給付するという渡し切り制度を取ったのは、その都度の精算が「大変な手間」になるとされたからだが、これも一種の「技術的困難性」を理由とするものだったと言える。

しかし、そのような技術的な困難性は現代では、クレジットカードや電子マネーを使用したり、クラウドでの経費精算システムを導入したりすれば克服できる。そうした経費精算は民間では当たり前だ。今回の抜本改正先送りが「正当な理由なく長期にわたってこれを怠った」ものとなるかどうかを、最高裁ならぬ国民がじっと見ていることを肝に銘じるべきであろう。

5月8日には元参議院議員(立憲民主党岐阜県連常任顧問)が、失効済みJR無料パスを悪用し、現職国会議員の名前を騙って新幹線特急券・グリーン券を詐取した嫌疑で逮捕され、27日に起訴されたばかり。「国会議員の特権」に対する国民の目はかつてなく厳しい。

JRパス詐取問題に対して国会(議運)が申し合わせた再発防止策は、当面の間JR側の求めがあれば「顔写真付き身分証明書」を提示するというもの。GHQのジャスティン・ウィリアムズは「国会の尊厳と権威」を高めるために郵便無料特権の勧告案を起草した。まさか75年後に「国会の尊厳と権威」が、顔写真付き身分証提示で担保しなければならない所まで堕ちるとは想像していなかったに違いない。

旧・文通費の改革を尻切れトンボで終わらせてはならない。もし経費精算という本来的な趣旨の実現を諦めるというのであれば、「調査研究広報滞在費」という意味不明の名称ではなく、いっそのこと「広報費」「図書費」「会議費」という三大費目の頭文字を採って、「コズカイ」と改称したほうがいい......のかもしれない。

ニューズウィーク日本版 コメ高騰の真犯人
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月24日号(6月17日発売)は「コメ高騰の真犯人」特集。なぜコメの価格は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story