コラム

中国共産党化する日本政治

2020年10月03日(土)08時50分

何のメリットもない権力行使を行いたがる権力は最も恐ろしい Issei Kato- REUTERS

<携帯料金や日本学術会議人事への政治介入で、「働く内閣」の関心は権力行使そのものであることが露呈した。これは経済政策も中央集権化して失敗した共産主義国家と同様の帰結になる危険性があることを意味する>

携帯料金に政治介入するという憲法違反、共産主義国家のような統制経済が始まった。これは、中国でもいまややらないレベルの統制で、これでビジネスが育つわけがなく、日本の市場経済は終わりだと思っていたが、実は、それ以上で、経済だけでなく、社会も、日本は中国以上の統制国家になりつつあるようだ。

日本学術会議への人事介入は、戦後の日本の歴史ではあり得ないこと。安倍政権時の憲法改正議論や、敵地攻撃論など比べ物にならない(なぜなら、これらは国家の安全保障戦略としては妥当という議論は十分にあり得るからだ)、戦中の統制社会を彷彿させるもので、NHKの朝のドラマのタイミングと相まって、人々を恐怖に陥れるには十分な効果があるだろう。

しかし、私がもっとも驚いたのは、日本学術会議というまったく力のない組織の人事に介入したことであった。

学術会議に手を出す必然性は

日本学術会議のメンバーが誰になろうと、世の中にまったく影響はない。そもそも、日本国民の99.99%が日本学術会議とは何かを知らないし、今回のことで説明を受けても、何の役に立つ組織なのか、まったく理解できないだろう。いや、その理解は正しく、何の役にも立たない。本人たちにとってはどうだか知らないが、99.9999%の国民にとっては何の関係もないのだ。カネの無駄だから、日本学術会議をつぶしてしまう、というのならまだわかる。とにかくムダをつぶした、ということをプラスに捉える有権者はいるから、票を取る、支持率を上げるために、ぶっ潰す、事業仕分けならぬ、事業廃止をすることは意味がある。

しかし、たった6名の任命を拒否したことによる世の中への影響は、恐怖政治の始まりだ、という無駄な批判を、うるさいメディアに書かれることだけだ。しかも、政権批判を自己目的化している左寄りのメディアだけでなく、これはすべてのメディアが多かれ少なかれ批判するだろう。つまり、メリットゼロで、デメリットあり、リスクありの行動であり、合理主義者とみられていた現政権がなぜこんな余計なことをしたのか、という大きな疑問が生じたことが一番の問題なのだ。

もしかしたら、現政権は、一般に思われているほど、合理的ではないのではないか? という仮説が急に浮上したのである。

これは、まずい。
現政権にとっても良くないが、そもそも、日本にとって最悪のシナリオだ。

仕事をする内閣が、合理的でないとすると、大変困ったことになる。政治的理由から行うポピュリズムは、日本にとってベストではないかもしれないが、民主主義のコストとして必要悪の面もあるから、程度によっては許容できる。だが非合理的な権力行使、あるいは政策の実現というのは、日本にとって、いかなる意味でも不必要なコストを課することになる可能性がある。

これが恐怖政治よりも恐怖だ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国外相、イラン指導者殺害や体制転換の扇動「容認で

ワールド

OPECプラス8カ国、4月に増産開始で合意 イラン

ワールド

イラン首都照準に2日目攻撃、トランプ氏は反撃に警告

ワールド

プーチン氏、ハメネイ師殺害は道徳規範と国際法に違反
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作曲家が「惨めでもいいじゃないか」と語る理由
  • 4
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 5
    【銘柄】「三菱重工業」の株価上昇はどこまで続く...…
  • 6
    米・イスラエルの「イラン攻撃」受け、航空各社が中…
  • 7
    【銘柄】「ファナック」は新時代の主役か...フィジカ…
  • 8
    今度は「グリンダが主人公」...『ウィキッド』後編の…
  • 9
    「高市大勝」に中国人が見せた意外な反応
  • 10
    「何でこんなことするの...」 調子に乗った観光客、…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 7
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story