コラム

「不平等な特権待遇」国会議員の文通費に知られざる歴史あり(2)~GHQ勧告の否定から始まった

2022年03月11日(金)18時00分

GHQに対して巻き返す日本側

そこでGHQ側は11月4日、山崎猛衆議院議長に対して「第一次指示」と呼ばれる指示文書を手渡したが、その中に「郵便無料送達の特権」(franking privileges)が含まれていた。その規定は、

9. Franking privileges
a. Diet members to be privileged to send through the mails free of charge public documents printed by order of the Diet and all other mail matter of an official nature, under conditions to be prescribed by the Diet.

議員は議会によって発行せられたる公の書類及びその他公の性質を有する郵便物を無料で郵送する特権を有すべし。但し右に対しては国会において条件を付する必要がある(西沢哲四郎訳)

というものであり、9月3日作成の「新憲法下の議会の諸問題」の内容を基本的に踏襲している。

GHQによる「指示」に基づいて国会法という重要な憲法附属法が制定されたことは、戦後日本の基本的枠組みがGHQによって形成されたという「従属性」を示す一つの証跡として、否定的に見られることがある。

しかし通信費の成立過程に限って言えば、実は必ずしもそうとは言えない。GHQ側の指示に対して日本側は、いわば巻き返しのような形で「換骨奪胎」を行ったのである。(続く)

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プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

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