コラム

「不平等な特権待遇」国会議員の文通費に知られざる歴史あり(2)~GHQ勧告の否定から始まった

2022年03月11日(金)18時00分

GHQのウィリアムズが国会議員の郵便無料化について起草した勧告原案 (国立国会図書館所蔵マイクロフィルム)

<昨年11月の特別国会でやり玉にあがった国会議員の「特権」文通費。知られざるその成立の歴史から問題の本質を考える>

国会議員の「文書通信交通滞在費」(文通費)制度を改正する議論が国会で始まっている。自民、公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主、共産の与野党6党は3月8日、文通費の見直しに関わる与野党協議会を開催。文通費という名称が実態に沿っていないとして、名称の変更や法改正の必要性について検討することになった。

昨年11月の特別国会で「やり玉」にあがったのが、文通費だ。10月31日の総選挙で初当選、または一度落選して返り咲き当選を果たした衆議院議員に対して、10月における在職日数がわずか1日であるにもかかわらず、文通費100万円が満額支給された。このことに対する疑義が、日本維新の会によって提起されたのだ。

「文通費」の存在をよく知らなかった有権者も含めて、世間の批判が殺到。議論の焦点となったのは、在職1日でも満額支給されるという「月割」制度の不合理だけでなく、そもそも「使途」の制限が制度的に存在せず、議員が好き勝手に使える特権的な「第二の歳費(給与)」になっているのではないかといった点だ。

文通費の規模については、鈴木宗男参議院議員(当時は衆議院議員)が2008年に質問趣旨書を提出しており、福田康夫内閣は「衆議院の予算額は衆議院で57億6000万円、参議院で29億400万円であり、国会法第9条に規定されている月額100万円に12箇月を乗じ、更に各議院の議員定数を乗じて得た額を計上している」と答弁している。現時点で国会議員の定数は衆議院465人、参議院245人で計710人(ただし参議院は3名が欠員中。また2022年7月26日以降は定数が248人になる)。年間約85億円という巨費が支出されていることになる。

このコラムでは前回、「不平等な特権待遇」国会議員の文通費に知られざる歴史あり(1)」として、昭和22年の国会法38条及び歳費法9条の制定直後から「現金ではなく郵便切手購入券(クーポン)を提供する」改正案が提案されていたが、成案とならず幻に終わったこと、当初は月125円だった「通信費」(当時は単に通信費と言った)がすぐに月1000円に値上げされたといった歴史を紹介した。

今回はその前史として、そもそも「文通費がどうやって成立したか」について振り返りたい。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ブラジル首脳が電話会談、貿易や犯罪組織対策など協

ビジネス

NY外為市場=ドル対円で上昇、次期FRB議長人事観

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀「地ならし」で国債市場不安定

ビジネス

再送-〔マクロスコープ〕日銀利上げ判断、高市首相の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 6
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 7
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story