コラム

極右「ドイツのための選択肢」が地方選で「歴史的」勝利...東西の分断はドイツに何をもたらすのか?

2024年09月03日(火)18時52分

英紙ガーディアン(9月1日)は「極右AfDの成功が示す東西ドイツの分断」というフィリップ・オルターマン欧州文化担当編集者の分析を掲載した。「旧東独地域の有権者は自らの政治的アイデンティティーを主張している」(オルターマン氏)

旧東独と旧西独はますます離れている

「1989年11月にベルリンの壁が崩壊した後、かつての西ドイツ首相ヴィリー・ブラントは統一によって『共に属するものが共に成長する』と予言した。その有機的な癒し(筆者注:自然で無理のない統合)のイメージは35年経った今、なんと楽観的に聞こえるだろう」(同)

今回の歴史的な選挙結果は旧東独と旧西独がますます離れていくドイツの姿を描き出しているという。来年のドイツ連邦議会選に向けた世論調査でAfDの支持率は19%で、CDU/CSUの31%に次ぐ2位。AfDの支持者は旧東独地域に大きく偏っている。

首都ベルリンを囲むブランデンブルク州でも9月22日に州議会選が行われる。直近の世論調査ではAfDが24%と、連邦政府与党の社会民主党(SPD)の20%を引き離す。AfDの台頭は所得・雇用・生活水準における固定化した格差が原因なのか。

東独出身者が抱く社会的、政治的な喪失感の裏返し

この2年間、テスラやインテルなどのグローバル企業が東独地域に工場をつくったため、東部の州の経済は西部の州よりも急速に成長していると前出のオルターマン氏は指摘する。

東独出身の社会学者シュテフェン・マウ氏は近著『不平等な統一』で、再統一により東独はやがて西独に同化するという前提に異議を唱える。それは経済のグローバル化によって中国やロシアはやがて米欧の自由と民主主義のシステムに融合するという誤った前提とパラレルを成す。

再統一後も旧東独のメンタリティーやアイデンティティーは旧西独とは異なるままだとマウ氏は指摘する。

こうした文化や伝統の違いを上手く汲み取ったAfDは旧東独で成功を収めている。AfDの台頭は東独出身者が抱いている社会的、政治的な喪失感の裏返しでもあるのだ。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナに大規模な夜間攻撃、10人死亡・40人負

ビジネス

ユーロ圏経常黒字、9月は231億ユーロに拡大 

ワールド

フォトログ:美の基準に挑む、日本の「筋肉女子」 

ワールド

ウクライナに大規模な夜間攻撃、10人死亡・40人負
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story