コラム

イラン製「カミカゼドローン」に日米欧の電子部品が...G7の「経済力低下」で制裁は穴だらけ 逆噴射の恐れも

2023年09月28日(木)20時41分
イラン製ドローン「シャヘド136」の残骸

ウクライナへのハルキウへの攻撃に使用されたイラン製ドローン「シャヘド136」と見られる残骸(2022年10月) Vitalii Hnidyi-Reuters

<過去3カ月間に西側技術を使ったロシア側のドローンによるウクライナへの都市攻撃は600回以上。なぜ制裁は簡単に回避されてしまうのか>

[ロンドン発]ウクライナ政府が西側支援国に送った機密文書によると、ウクライナ攻撃に使用されているイラン製カミカゼドローン(自爆型無人航空機)シャヘド136/131に日本をはじめ米国、スイス、オランダ、ドイツ、カナダ、ポーランドに本社を置く西側企業の集積回路などの電子部品が使われているという。

英紙ガーディアン(27日付電子版)が機密文書を入手して特ダネとして報じた。

それによると、ウクライナ政府が8月に先進7カ国(G7)各国政府に送付した47ページの機密文書には「過去3カ月間だけでも西側の技術を使ったドローンによる都市への攻撃が600回以上もあった」と記されている。西側企業が製造した52の電子部品がシャヘド131に、57の電子部品がシャヘド136に使われていたという。

シャヘド136の重量は約200キログラム。航続可能距離は約2500キロメートル、時速約185キロメートルだ。イランは黒海に面したロシアのノヴォロシースク港に搬入しているシリアの工場でも生産しているが、生産拠点はロシア国内に移りつつある。機密文書は「イラン政府もロシアの需要とウクライナでの過度の使用頻度に対応できない」と分析している。

機密文書でウクライナ政府はG7各国政府に「イランやシリアにあるドローンの生産工場やロシア国内の潜在的な生産拠点へのミサイル攻撃」を呼びかけ「パートナー国が必要な破壊手段を提供してくれればウクライナ軍によって実行可能」という代替策を提案している。冬に向けロシア軍が再びカミカゼドローンによるインフラ攻撃を強化してくる恐れがある。

西側、ロシア側、第三勢力に3分割される世界

ドローンや精密誘導兵器の製造に必要な西側の先端技術は市販商品を通じて容易に入手できる。カミカゼドローンの輸出国イランもトルコ、インド、カザフスタン、ウズベキスタン、ベトナム、コスタリカなど第三国経由で西側の制裁を逃れたり、その影響を和らげたりできる。

ウクライナ戦争で世界は(1)米欧を中心にウクライナに軍事支援する西側50カ国以上(2)ロシア側に立つ中国、イラン、北朝鮮、シリア、ベラルーシ(3)インド、ブラジル、サウジアラビアなど第三勢力――に三分する。西側諸国もウクライナがロシアに負けないように支援しても、全領土を奪還できるだけの武器弾薬は供与していない。それが冷徹な現実だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

サムスン電子、第3四半期は32%営業増益 半導体市

ワールド

Azureとマイクロソフト365の障害、徐々に復旧

ワールド

トランプ氏、核兵器実験の即時開始を国防総省に指示

ワールド

中国首相、長期的な国内成長訴え 海外不確実性へのヘ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story