コラム

イラン製「カミカゼドローン」に日米欧の電子部品が...G7の「経済力低下」で制裁は穴だらけ 逆噴射の恐れも

2023年09月28日(木)20時41分

冷戦終結後、西側と中露の協調が進み、制裁もそれなりに意味があったが、これだけ世界が分断すると制裁を回避する手段はいくらでもある。米実業家イーロン・マスク氏傘下の民間企業スペースXが運用する衛星インターネットアクセスサービス「スターリンク」がウクライナ戦争で果たした役割を見れば、先端技術の官民格差は完全に逆転したことが分かる。

独統計会社スタティスタによると、G7対BRICS(中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカ)の国内総生産(GDP)が世界経済に占める割合は、冷戦終結後の1995年は45%対17%だったが、世界金融危機後の2010年には34%対27%とその差は縮まり、ウクライナ戦争勃発後の23年には30%対32%と逆転している。

ウクライナ戦争は21世紀の覇者を占う前哨戦

ウクライナ戦争は、21世紀は中国が支配するのか、それとも西側が中国の横暴を阻止できるのかを占う重要な「前哨戦」だ。第二次世界大戦は米国が核兵器の開発競争を制して連合国が勝利した。冷戦では、競争や研究開発を促す西側の自由経済システムが非効率な東側の共産主義経済を打ち負かした。

平時ではドル安=原油高、ドル高=原油安の法則が成り立つ。しかしウクライナ戦争で地政学上のリスクが増し、狡猾なウラジーミル・プーチン露大統領がサウジアラビアと結託して原油供給制限を年末まで延長すると9月5日に発表。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「サウジとロシア、原油削減のギャンブルで大勝利」と報じた。

同紙によると、世界的な景気後退と中国の成長鈍化への懸念、ドル高にもかかわらず、ブレント原油は1バレル=100ドルに向かって上昇する。サウジとロシアはここ数カ月で生産量が減少したものの、膨大な追加収入を手にした。余剰資金はサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の投資キャンペーンを後押しし、プーチンのウクライナ戦争を継続可能にする。

パトリオットなど西側の防空システムで強化されたウクライナの"空の盾"はロシア軍の長距離ミサイルに対して首都キーウの空は守れても、地方都市にまで手が回らないのが現状だ。だから空爆を行うロシア軍機を遠ざけられる米国製F-16の供与は焦眉の課題だ。ウクライナ軍のドローン撃墜技術も格段に向上したが、数が多いとすべてを撃ち落とすのは難しい。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこれまで何度も「ロシアはミサイル製造のための重要部品を一部のパートナー国企業を含む世界中の企業から入手する能力を持っている。完全な制裁が世界的に科されるべきだ。新しい防空ミサイルにお金をかけるよりテロ用部品の供給を断ち切る方が安上がりだからだ」と訴えてきた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、金利変更の選択肢残すべき リスクに対応=仏

ビジネス

ECBは年内利下げせず、バークレイズとBofAが予

ビジネス

ユーロ圏10月消費者物価、前年比+2.1%にやや減

ワールド

エクソン、第3四半期利益が予想上回る 生産増が原油
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story