コラム

「プリゴジンの反乱」を抑えられなかったプーチン...国民に「弱くて無能」な姿が露見した指導者に迫るメルトダウン

2023年06月27日(火)17時29分

プーチンは情報機関・治安組織・軍の国粋主義者(シロビキ)、資源に群がるオリガルヒ(新興財閥)、メディアを対立させ、自らが調整役となることで権力を維持してきた。プリゴジンとワグネルはシロビキの中でも特に国防省・軍を牽制するジョーカーとして重宝してきた。しかしプリゴジンのノンエリート的なレトリックが鼻持ちならなくなってきた。

23日の投稿でプリゴジンは「ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)がロシアを攻撃しようとしているという特別軍事作戦の大義はすべて嘘であり、国民と大統領を欺く口実に過ぎない」とショイグらを非難する一方で、初めてプーチンが唱える「特別軍事作戦の大義」を否定した。ワグネルをショイグに取り上げられ、攻撃されたことに逆上したのか。

ノンエリートのレトリックを操って人気を集めるプリゴジン

ロシアの独立系世論調査機関レバダセンターによると、政治家別の支持率(5月23日)はプーチンが前月より2%アップの42%。ミハイル・ミシュスチン首相が3%アップの18%。セルゲイ・ラブロフ外相が14%、ショイグが1%ダウンの10%。プリゴジンは3%アップの4%と初めてトップ10入りを果たした。

ミシュスチンも、ラブロフも、ショイグもプーチンの忠実な下僕で、政敵にはなり得ない。来年3月の大統領選に当選して事実上の終身大統領を目指すプーチンにとって、東部ドネツク州の激戦地バフムートを制圧し、テレグラムなどを通じてノンエリート層の怒りを煽って人気を集めるプリゴジンは無視できない存在になってきた。

調整役もルカシェンコに持っていかれたプーチンはロシア国民の目に「弱くて無能な指導者」に映り始めた。プーチンは「われわれが直面しているのはまさに裏切りだ」と危機感をあらわにした24日の演説に続く26日の国民向け演説で「国民の連帯は、いかなる恐喝も、内部混乱を引き起こそうとする試みも失敗する運命にあることを示している」と強弁した。

「武力反乱はいかなる場合も鎮圧されていたはずだ。反乱の組織者たちは国や国民だけでなく、犯罪に引きずり込んだ仲間をも裏切った。キーウのネオナチ、西側の後援者たち、すべての国家反逆者たちはロシア兵が互いに殺しあうこと、最終的にロシアが負けること、われわれの社会が分裂し、血なまぐさい内部闘争に陥ることを望んだ」と罵った。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBは利下げ余地ある、中立金利から0.5─1.0

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否 ネトフリ合

ビジネス

企業は来年の物価上昇予測、関税なお最大の懸念=米地

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 10
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story