コラム

困窮する弱者を「極右」と蔑むだけでは、「西洋の没落」と「次こそルペン」は不可避

2022年04月26日(火)11時21分

地方の国民連合支持者は全くと言っていいほど英語を話さない。そこで予めスマホに入力したフランス語の質問票に答えを書き込んでもらった。舞台芸術マネジャーの女性シンディーさん(36)は「マクロンの5年間で燃料費などすべてが高くなり、生活が苦しくなった。問題は購買力(インフレを差し引きした可処分所得)と年金受給年齢引き上げだ」と言う。

左官業ラファエル・クービアックさん(21)は「最も重要な問題は購買力。ルペン氏を支持するのは、彼女の考え以外に答えを見出せないからだ。仕事を見つけ、それを維持するのが本当に難しくなった」と漏らした。別の青年は「ルペン氏はすべてのモノが高くなりすぎた私たちの社会を変革すべきだ」と訴えた。

220426kmr_frp05.jpg

エナン・ボーモンの投票所に現れたマリーヌ・ルペン氏(筆者撮影)

ルペン氏、有権者と距離ゼロの近さ

ルペン氏とそれを取り巻く支持者とメディアの輪が投票所に近づいてきた。支持者一人ひとりの求めに応じて握手したり、頬を寄せ合ったり。有権者との距離はまさにゼロの近さである。スマホでルペン氏と自撮りのツーショットにおさまった支持者はうっとりとした恍惚の表情を浮かべる。「マリーヌ、大統領」のシュプレヒコールが沸き起こる。

混雑を予想して折りたたみ式の踏み台をロンドンから持参したが、長身男性が子供を肩車して前に立ちはだかる。ルペン氏がさらに近づいてくると人波で踏み台から落ちそうになったが、何とか後ろのフェンスで持ちこたえることができた。ルペン氏が数十センチメートルの距離に近づいてくる。吸い込まれるようなカリスマが彼女にはある。

220426kmr_frp02.jpg

支持者の自撮りに笑顔で応じるマリーヌ・ルペン氏(筆者撮影)

ルペン氏は反イスラムを唱える悪魔なのか。支持者にとって彼女は優しさと慈しみを兼ね備えた「母なる海」だ。ルペン氏はテレビ討論で「ヒジャブ(スカーフ)はイスラム主義者が押し付けた制服。公の場であらゆる宗教表現は禁止すべきだ」と述べた。公立学校でのスカーフ着用を禁止するなど仏世論のライシテ(政教分離原則)のとらえ方は次第に厳格になっている。

公の場とは法的に何を指すのか。純粋にファッションとして着用するスカーフはどうなのか。イスラム教の預言者ムハンマドをどう描くかの「表現の自由」も含め議論は尽きない。初潮を迎えたイスラム女性は髪をスカーフで覆う。共和国の価値を守るため、人前でスカーフをとることに大半のイスラム女性は抵抗を覚えるだろう。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story