コラム

困窮する弱者を「極右」と蔑むだけでは、「西洋の没落」と「次こそルペン」は不可避

2022年04月26日(火)11時21分

しかし仏社会は次第に不寛容になっている。右派支持層の取り込みを狙ったマクロン氏の政策はイスラム教徒には不人気で、世論調査機関Ifopの調査では約70%が1回目投票でメランション氏に投票したという。

マクロン支持者は高学歴の「勝ち組」で、何の助けも必要としない。一方、本当に助けが必要なのは地方の「負け組」であるルペン支持者、次に都市部の「負け組」メランション支持者なのだ。マクロン氏は「負け組」の声に真剣に耳を傾けなければ、燃料税引き上げに端を発した「黄色いベスト運動」の過ちを繰り返すだろう。

マクロン氏「私はみんなの大統領だ」

マクロン氏の勝利集会が開かれたエッフェル塔前のシャン・ド・マルス公園は数千人の若者で埋められた。ディスクジョッキーがヒット曲を次々と流して、パーティー気分を盛り上げる。夕焼けにエッフェル塔のイルミネーションがきらめく。マクロン氏はフランス国旗とEU旗が打ち振られる中、EU讃歌のベートーベンの『歓喜の歌』に合わせて入場した。

220426kmr_frp03.jpg

マクロン氏の勝利集会に集まった若者たち(筆者撮影)

マクロン氏は勝利演説で「多くの人が私の考えを支持してではなく、極右の考えを阻止するために私に投票した」ことを認めた。「金持ちのための大統領」と批判されていることを意識して「棄権した人やルペン氏に投票した人の怒りは理解できる。私はみんなの大統領だ」と力を込めた。

「私はより公正な社会と男女の機会均等のために働く。祖国の分裂に配慮する。誰も取り残さない。過去5年間の方法を継続することはない」とも強調した。24日夜に発表された仏世論調査(BAV)で3分の2がマクロン氏に国民議会での過半数を引き続き与えたくないと考えていることが示された。

マクロン支持者のマーケティングディレクター、パブリス・ゴドイヨさん(47)は「過激な選択肢より中道のマクロン氏の雇用を増やす経済政策や男女の機会均等政策を支持する。前回より多くの人がファシストのルペン氏に投票したのは残念だ。パンデミックや経済状況に怒る人たちがいる。彼らの怒りを解消できるのはマクロン氏しかいない」と話した。

次の5年、マクロン氏が党派を超えてルペン氏の支持者のために働かなければフランスは間違いなく過激な道を選択することになる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、利下げ前に物価目標到達を確信する必要=独連

ワールド

イスラエルがイラン攻撃なら状況一変、シオニスト政権

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ビジネス

中国スマホ販売、第1四半期はアップル19%減 20
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story