コラム

仏大統領選目前のマクロン、「プーチンとの対話」をやめる訳にいかない理由

2022年04月09日(土)15時31分
プーチンとマクロン

Gerard Julien/Pool via REUTERS

<マクロンの考えは「ロシアを中国から引き離すこと」であり、ルペンとの一騎討ちを控えた政治的状況からもプーチンとの関係を断ち切ることはできない>

[ロンドン発]ロシア軍のウクライナ侵攻が続く中、フランス大統領選の第1回投票が4月10日に行われる。第1回投票で過半数を獲得する候補者がいなければ同月24日に上位2人の決選投票が行われる。直近の世論調査で現職のエマニュエル・マクロン大統領を極右・国民連合のマリーヌ・ルペン氏が3ポイント差に追い上げる激戦となっている。

世論調査をもとに主要候補者6人の支持率をグラフにしてみた。
エマニュエル・マクロン氏26%(共和国前進)急進中道
マリーヌ・ルペン氏23%(国民連合)女性、極右から右派ナショナリスト政党にイメージ転換図る
ジャンリュック・メランション氏17.5%(不服従のフランス)強硬左派
エリック・ゼムール氏9.5%(極右の政治評論家)
バレリー・ペクレス氏8.5%(共和党)伝統右派
アンヌ・イダルゴ氏2.5%(社会党)パリ市長、伝統左派

220409kmr_mpt02.jpg

共和党と社会党という右派と左派の伝統的二大政党が衰退し、前回の大統領選と同じく決選投票ではマクロン氏とルペン氏の一騎討ちになる見通しだ。社会党の凋落ぶりは目を覆うばかりで、急進中道マクロン氏と強硬左派メランション氏に股裂きにされている。極右の政治評論家エリック・ゼムール氏の支持率が一時16%を超え、フランス社会の右傾化を改めて印象付けた。

英誌エコノミストは独自の選挙モデルをもとに、マクロン氏が決選投票に進む確率は98%、再選の確率は78%と予想する。国民会議で過半数を持つ大統領が再選するのは1965年のシャルル・ド・ゴール以来。マクロン氏はウクライナに侵攻したウラジーミル・プーチン露大統領との対話を続け、期限前日の3月3日に新聞に寄稿した「国民への手紙」で出馬を表明した。

マクロンの3大ライバルはいずれもプーチン支持者

「再選のための出馬表明を最後の瞬間まで待った1988年のフランソワ・ミッテランと同じ戦法だ。マクロン氏の3大ライバル、ルペン、ゼムール、メランション各氏はみな長年のプーチン支持者。マクロン氏もウクライナ問題でプーチン氏と話し合うことが世界の檜舞台で自分が権威を持っていることを大統領選で示すのに有利と考えた」

仏エコール・ポリテクニークのビンセント・マルティニー准教授(政治科学)はこう解説する。「3氏はウクライナの自由ではなく、いかなる代償を払っても平和を守ることを最優先課題に挙げる。フランスは中立を保つべきだという考えだ」と言う。フランスは血も涙もない非道なプーチン氏に理解を示すのはどうしてなのか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story