コラム

仏大統領選目前のマクロン、「プーチンとの対話」をやめる訳にいかない理由

2022年04月09日(土)15時31分

フランスのロマンティック・コメディ映画『シラノ・ド・ベルジュラック』に主演した仏俳優ジェラール・ドパルデュー氏(73)はプーチン支持者として有名だ。ドパルデュー氏は2013年、税金が高い祖国を捨て、ロシアの市民権を取得した。黒海のリゾート地ソチでプーチン氏から直接ロシアのパスポートを受け取った。

ドパルデュー氏は公開書簡で「私はロシア、人々、歴史、作家、文化、知性を愛している。ロシアは偉大な民主主義国だ」と称賛を惜しまなかった。15年にはロシアのクリミア併合を支持し、ウクライナから5年間入国を禁止された。しかし今回のウクライナ侵攻でようやく「狂気の、受け入れ難い、行き過ぎた行為だ」とロシアを非難した。

欧州のロシア依存はスエズ危機から始まった

フランスは西側では比較的ロシア好きが多い国だ。文化的なつながりもある。今回、ウクライナへの武器供与や対露制裁を主導するアメリカやイギリスのロシア好きは20年12月時点でそれぞれ19%、24%。逆にロシア嫌いは71%、70%にのぼる。これに対しフランスのロシア好きは35%、ロシア嫌いは57%で、西側主要国の中ではイタリアに次ぐ親露国である。

アメリカと対立した1956年のスエズ危機以降、フランスは仏独関係を軸に欧州の強化を図り、その中で祖国の利益を追求してきた。対米追従に走ったイギリスの外交政策とは正反対だ。中東のエネルギーに自由にアクセスできなくなった西欧は旧ソ連へのエネルギー依存を深める。EU(欧州連合)は石炭・ガス輸入の45%、石油輸入の25%をロシアに依存する。

欧州がロシアに対して強く出られなかった歴史的背景にはスエズ危機がある。

制裁を科した上でプーチン氏との対話継続を主張するマクロン氏に対して、ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は「大統領、あなたは何度プーチンと交渉したのか。それで何を達成したのか。アドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、ポル・ポトでも交渉するのか。ロシアには大量虐殺の責任がある」と厳しく批判した。

自民党の安倍晋三元首相は首相在任中にプーチン氏と27回会談し「平和条約交渉をより大きく進めることができた」と胸を張った。エリゼ宮(仏大統領府)によると、マクロン氏は今年に入って16回以上プーチン氏と話した。マクロン氏は「私はロシアとの対話に努めてきた。欧州各国首脳と同様に停戦について議論した。自己満足でも甘えでもない」と反論した。

ルペン氏に猛追されていることを意識して、マクロン氏は「ポーランド首相の発言はスキャンダラスだ。ウクライナ問題でクレムリンに立ち向かうEUの結束を弱める恐れがある。モラヴィエツキ氏は極右政党の出身で、大統領選で自分のライバルであるルペン氏を支持している」とまで言った。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

街角景気、2月は4カ月ぶり改善 前月比1.3ポイン

ワールド

中東情勢悪化に伴う影響「予断持てず」、原油動向次第

ビジネス

中東情勢悪化に伴う影響「予断持てず」、原油動向次第

ビジネス

アングル:政策株解消で揺らぐ「岩盤」、物言う株主台
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ルートとは?...スクワットの真実
  • 2
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 3
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリアルな街で考える60代後半の生き方
  • 4
    「溶けた金属のよう...」 ヨセミテ国立公園で「激レ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 7
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    最後のプリンスが「復活」する日
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 5
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story