コラム

プーチンに戦争を決断させた「原油価格のロジック」と、その酷すぎる「計算違い」

2022年03月19日(土)14時50分

ウクライナ侵攻によって地球温暖化対策が後退するかについては「欧州の炭素先物市場は昨年、二酸化炭素(CO2)1トン当たり100ユーロ(約1万3160円)に近づいたが、一時60ユーロ(約7895円)を割り込んだ。多くのヘッジファンドやロシア企業が撤退し、炭素価格は下がってきている」と指摘する。

炭素価格は通常、エネルギー価格と連動しているが、プーチン氏の戦争で連動しなくなった。炭素価格が下がれば、温暖化対策の取り組みは遅れる。ウクライナ侵攻でインフレが悪化し、脱炭素化に向けた動きはスローダウンせざるを得ないだろう。

プーチン氏にはウクライナに全面侵攻しても同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領が降伏して親露派の傀儡政権を樹立すれば、米欧の経済制裁はブーメラン効果を避けるため短期間で終わるという読みがあったのだろう。それこそ取らぬ狸の皮算用に終わった。

ウクライナとロシアの戦争が泥沼化すればエネルギー価格やインフレへの影響は制御不能になる恐れがある。米海軍大学校ロシア海事研究所のエミリー・ホランド准教授は「私たちは前例のないエネルギーショックの中にいる。1973年の第一次石油危機は中近東の産油国が石油価格の大幅な引き上げ、生産削減、輸出制限を行った」と言う。

「それに比べ、今回は原油、天然ガス、石炭、金属の価格、電気代が一斉に高騰している。石油危機より世界経済に与える影響は大きく、悪くなるだろう」。今回の侵攻はすでに8年が経過したウクライナ東部の紛争と同様、泥沼化する恐れがある。われわれは1世紀前と同じ不吉なスパイラルに入り始めている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、重要鉱物で「貿易圏」構築を提案 中国依存低減を

ワールド

習氏、台湾問題は米中関係で「最重要」 トランプ氏と

ワールド

米イラン協議、6日にオマーンで開催 核問題中心に討

ワールド

米政権、ミネソタ州派遣の移民職員700人削減へ=国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 9
    戦争の瀬戸際の米国とイラン、トランプがまだ引き金…
  • 10
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story