コラム

日本よ!「反韓・嫌韓」は時間の無駄だ

2019年03月18日(月)12時33分

アイルランドが英国から正式に独立を果たしたのは第二次大戦後の1949年。北アイルランドは英国の統治下にとどまったが、カトリック系住民とプロテスタント系住民が北アイルランドの帰属について争った北アイルランド紛争では約3600人が犠牲になった。

歴史問題の解決には長い時間がかかる

その発端となった1968年の「血の日曜日」事件で北アイルランドの住民に向かって発砲した英軍兵士F(匿名)が起訴される方針がごく最近、確認されたばかりだ。

1998年の「ベルファスト合意」で封印されたと思っていた北アイルランド紛争の古傷がブレグジット(英国のEU離脱)で傷口を開けてしまった。英国がEUから離脱すれば、北アイルランドとEUに残留するアイルランドの間に通関などの「目に見える国境」が復活する。

「イングランドの困難はアイルランドのチャンス」という歴史的なスローガンがある。これを合言葉にアイルランドは第一次大戦に参戦した英国の背後でドイツと組み、独立を画策した。

ブレグジットを逆手に取り、アイルランドのレオ・バラッカー首相は「北アイルランド紛争の悪夢を蘇らせてはならない」を合言葉にEUと組んで北アイルランドをEUの単一市場に残留させる作戦に出た。これを受け入れると、英国は北アイルランドを「割譲」するに等しい。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相がバラッカー首相を支持していることもアイルランド独立の歴史と不思議なパラレルを描く。

将来の通商交渉が決裂しても「目に見える国境」を復活させないバックストップ(安全策)としてテリーザ・メイ英首相は英国全体をEUの関税同盟に残留させる案を出した。しかし、これが北アイルランドと保守党のナショナリストを逆上させてしまった。

390億ポンドの離脱清算金を支払わされた上、EUやアイルランドに将来の通商交渉や国境問題を投げ出されると、EUの関税同盟に永遠に繋ぎ止められる恐れがある。それでは何のためにEUを離脱するのか分からなくなる。ブレグジット交渉が難航する背景はここにある。

英国が表立ってアイルランドに言い返すことはないものの、北アイルランド自治政府の元アドバイザーがこんなアネクドートを教えてくれた。「英国がアイルランドの出してきた質問の答えを見つけると、アイルランドはすぐに質問を変えるんだ」

日本の外交官がよく「韓国は日本が解決策を出すと、いつもゴールを動かす」とこぼしていたのを思い出した。しかし英国と日本の大きな違いは、英国は決して感情的にはならず、アイルランドを罵らないことだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com

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