コラム

3カ月前にランサムウェア「Wannacry」から世界を救ったヒーローがサイバー犯罪で逮捕、仲間は無実を主張

2017年08月04日(金)19時56分

NHSの医師ジリアン・ハンがツイッターに投稿したWannaCryの脅迫状(写真は本人提供)

[ロンドン発]5月、イギリスの国民医療サービス(NHS)をはじめ150カ国23万台以上のコンピューターに感染したランサムウェア「WannaCry(ワナクライ、泣きたくなる)」の拡散を止めて一躍ヒーローとなったイギリス人男性が銀行口座の個人情報を盗み出すマルウェアを作っていたとしてアメリカ連邦捜査局(FBI)に逮捕された。

アメリカ司法省が8月3日に発表したところによると、逮捕、起訴されたのは「マルウェアテク」のハンドルネームで知られるマーカス・ハッチンズ被告(23)。マーカスは仲間と一緒にラスベガスで開かれていたハッカー・カンファレンス「デフコン」に参加、2日にマッカラン国際空港のラウンジでイギリス帰国便を待っている際、何の前触れもなくFBIサイバー犯罪捜査官に連行された。

【参考記事】ランサムウエア「WannaCry」被害拡大はNSAの責任なのか

マーカスが作成し、拡散させたとされるマルウェアは「クロノス・バンキング・トロージャン」で、感染したコンピューターから銀行のオンライン口座にアクセスするとユーザーネームとパスワードが知らないうちに盗み出されてしまう。被害はカナダ、ドイツ、ポーランド、フランス、イギリスや他の国々にも及んでいた。

【参考記事】「パスワードは定期的に変更してはいけない」--米政府

値段はダークネットで50ドル

このマルウェアは、個人情報や薬物が取引される世界最大級のオンライン・ダークマーケット「アルファベイ」で取引されていたが、アルファベイは7月、アメリカが主導する国際捜査でシャットダウンされている。ロンドンにあるシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)によると、WannaCryのようなランサムウェアはダークネットを通じて50ドルもせずに入手できるそうだ。

【参考記事】サイバー戦争で暗躍する「サイバー武器商人」とは何者か

マーカスは6つの罪で起訴された。罪状は2014年7月から翌15年7月にかけ、共謀してコンピューターの不正と乱用を働き、電信を傍受するデバイスの広告を掲載して拡散させたうえ、電信を傍受し、権限者の許可を受けることなくコンピューターにアクセスしたという内容だ。マーカスが作成したマルウェアを共犯がインターネット上のフォーラムで販売して2000~3000ドルを稼いでいたとみてFBIは裏付けを進めている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ各地に攻撃、キーウで23人負傷 鉄道も被

ビジネス

英建設業PMI、6月は48.8に上昇 6カ月ぶり高

ビジネス

中国の海外ブランド携帯電話販売台数、5月は前年比9

ビジネス

焦点:英で「トラスショック」以来の財政不安、ポンド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    1000万人以上が医療保険を失う...トランプの「大きく…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story