「財政出動で需要を拡大しろ!」では、日本経済は救えない...単純な需給ギャップ議論を卒業しよう

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<需給ギャップがマイナスであることは、日本が大規模緩和策を継続することのよりどころの1つとなってきたが......>
日本では需要が弱く、需給ギャップがマイナスになっているので、財政政策や金融政策で需要を拡大することが重要との意見が多い。コロナ危機以降は、コロナ対策や防衛費の増額問題などもあり、国債をさらに増発して大型財政出動を実施すべきとの声が大きくなっている。
需給ギャップがマイナスであることは、大規模緩和策を継続することのよりどころの1つとなってきたが、10年にわたって金融緩和を継続しても効果はほとんどなく、需要が拡大する兆しは見られない。
需給ギャップというのは、経済における需要と潜在的な供給力の差を示す数値だが、これを正確に把握するのは難しく、生産関数などの数式と過去データを用いた推計値を用いることが一般的である。推計を行うには一定の前提条件を付与する必要があるため、得られた数値が絶対的に正しいとは限らない。
また、需給ギャップをベースにした経済政策というのは、景気循環的な一時的な不況には有益とされるものの、日本のような長期停滞の場合、供給の機能不全という問題が絡んでいる可能性があり、単純に需要を増やしても効果が得られないことは十分にあり得る。さらに言えば、需給ギャップに対して財政出動を機械的に当てはめることにも注意が必要だ。
もし需給ギャップの差を常に財政や金融によって調整することになれば、需要不足の時には財政出動を行う一方、需要過多の時には緊縮財政で景気を引き締める必要が出てくる。だが不思議なことに需給ギャップの議論については、財政拡大の文脈で主張されるケースばかりであり、需要過多の時に緊縮財政で景気を後退させるべきという主張はほとんど耳にしない。
結局のところ財政出動という結論が先にあり、お墨付きとして需給ギャップが持ち出されているにすぎないのが現実だろう。
インフレによるコスト増と人手不足による供給制限
バブル崩壊後、日本経済は国内消費が過度に低迷し、需要不足が続いてきたことは間違いない。だがコロナ危機を経て日本経済は今までとは全く異なる顔を見せつつある。それはインフレによるコスト増加と極度の人手不足による供給制限である。
人口減少による人手不足はこれまでも指摘されてきたが、コロナ危機をきっかけに多くのシニア層が退職したことに加え、若年層が条件の悪い職場を強く忌避するようになり、従来とは次元の異なる人手不足時代が到来している。
マクロ的には需要不足だったとしても、建設や公共、運輸、介護など特定分野で極度の人手不足となり、当該分野の供給が制限された場合、それがボトルネックとなり、今度は経済全体の供給を脅かすことになる。
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