コラム

日本が「新しい戦前」にあるかは分からないが、戦前とここまで酷似する不気味な符合

2023年01月25日(水)19時10分
戦前の日本の風景写真

KEYSTONE-FRANCEーGAMMA-RAPHO/GETTY IMAGES

<タモリの「新しい戦前」発言で「日本は戦争に向かっている」とする声が大きくなったが、実際に第2次大戦前の日本の状況は近年の日本とそっくりだった>

タレントのタモリ氏が「新しい戦前」と発言したことが話題を呼んでいる。本人がどのような意図でこの言葉を使ったのか明確には分からないが、日本が戦前と同じ道をたどろうとしていると解釈した人は多い。

現代の日本が戦争に向けて突き進んでいるのかはともかく、近年の国際情勢が戦間期(第1次大戦と第2次大戦の間)に似ているとの指摘は少なくない。過去について過度にこだわるのは不健全である一方、「歴史は繰り返す」のもまた事実であり、歴史を理解することはとても大事なことである。

戦間期の国際情勢は世界恐慌をきっかけに激変した。恐慌前の欧州は第1次大戦の戦後処理が最大の関心事であり、大西洋を挟んだアメリカは新興国として空前の好景気を謳歌していた。ところが1929年10月に発生した暗黒の木曜日(ニューヨーク株式市場の大暴落)を契機に世界恐慌となり、その後は国家のエゴがムキ出しになったブロック経済体制に移行した。

日本は第1次大戦で主戦場にならなかったことから戦争特需が舞い込み、80年代のようなバブル景気と株高に沸いた。それまで株に縁のなかった人も投資に手を染め、続々と株長者が誕生。成り金という言葉もこの頃から頻繁に使われるようになった。

だが、戦争が終わってしばらくして、深刻な不況と長期デフレに突入。そこに関東大震災と世界恐慌が加わったことで、日本経済は壊滅的な打撃を受けた。国民は不安心理にさいなまれ、国粋主義や軍国主義が台頭。国債の日銀直接引き受けによる大規模な財政出動により激しいインフレが進み、第2次大戦終戦と同時に日本経済が破綻したことは、多くの人が知るとおりだ。

戦前も国債の過剰発行が

第1次大戦バブルを80年代バブルに、関東大震災を東日本大震災に、国債大量発行による積極財政を量的緩和策に置き換えると、当時の日本がたどった道のりは現在とそっくりである。

80年代バブル末期には、大流行したディスコで扇子を持って踊る女性が続出したが、大正バブル当時はモガと呼ばれるショートヘアの女性が銀座の町を闊歩し、話題を振りまいた。イノベーションに対応した企業改革が必要との指摘が繰り返されたものの、企業は改革を拒み、国債の過剰発行を危惧する意見に対しては、「国債は国民の資産なのでいくら刷っても問題ない」といった意見が声高に主張されるようになった点でも、当時と現代はよく似ている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き トランプ関税の影響見極

ビジネス

スウェーデン中銀、政策金利据え置き 「今後も維持」

ビジネス

米との貿易戦争、ユーロ圏のインフレ率上昇し成長は減

ビジネス

スイス中銀、0.25%利下げ 「インフレ圧力弱い」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 5
    ローマ人は「鉛汚染」でIQを低下させてしまった...考…
  • 6
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 7
    DEFENDERの日本縦断旅がついに最終章! 本土最南端へ…
  • 8
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    【クイズ】LGBTQ+の中で「最も多い」アイデンティテ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 10
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story