コラム

なぜ北欧の人々は、短時間労働でも裕福な暮らしができるのか?

2020年01月29日(水)12時03分

時間とお金にゆとりのある生活を送るためには何が必要か vorDa/ISTOCKPHOTO

<北欧諸国やドイツなどでは、週休3日制を導入することまでもが現実的な議論のテーマ。日本の労働環境とこれほど大きな違いがある理由とは>

34歳の若さでフィンランド首相に就任したサンナ・マリン氏が、働き方改革の一環として週休3日制の導入を検討するというニュースが世の中を駆け巡ったが、残念ながらこれは誤報だった。記事の元になった発言は首相就任前のもので、フィンランド政府は現時点で週休3日制を正式に検討しているわけではない。

だが北欧諸国では、スウェーデンが1日6時間労働の実証試験を行うなど、現状からさらに労働時間を削減しようという動きが見られる。なぜ北欧諸国は大胆な労働時間の削減を現実的なレベルで議論できるのだろうか。

結論から言うと、企業の生産性が高く、経済的な余力が大きいことに尽きる。2018年のフィンランドの労働生産性(時間当たり)は65.3ドル、日本は46.8ドルなので日本の1.4倍の生産性がある。スウェーデンはさらに高く72ドル、ノルウェーは86 .7ドルもある。

日本企業は1万ドルを稼ぐために、30人の社員を投入して約7時間の労働を行っているが、フィンランドでは24人の社員が約6.5時間働くだけでよい。つまりフィンランドでは日本の約75%の労働力で同じ金額を稼げるので、日本と同水準の豊かさでよければ、さらに労働力を削減できる。現状は週休2日なので、1日当たりの労働時間にもよるが週休3日も不可能ではない。

もっとも、生産性を上げずに労働時間だけを削減すると、生活水準は日本並みに下がってしまうので、豊かな生活を謳歌している北欧人にとっては受け入れ難いだろう。現実的な難易度はかなり高く、それ故に政府も正式な検討までは至っていないものと思われる。だが理論上とはいえ、週休3日も不可能ではないというのは、日本人から見ると何とも羨ましい限りである。

生産性を高める方法は

この手の議論をすると、北欧は小国だから実現できるのであって、日本とは条件が違うという批判が必ずといってよいほど出てくるのだが、これは一種の思考停止だろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

リトアニアが緊急事態宣言、ベラルーシの気球密輸が安

ワールド

タイとカンボジア、国境沿いで衝突拡大 停戦維持が不

ビジネス

ドイツ輸出、10月は米・中向け大幅減 対EU増加で

ワールド

米軍、重要鉱物の国内精製施設開発へ 中国依存からの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story