コラム

外国人にオープンな社会ほど、単純労働者の受け入れは必要ないという皮肉

2018年12月26日(水)13時50分

外部に対して閉鎖的になればなるほど、外国人や移民の問題がやっかいに(写真はイメージ) lamontak590623-iStock

<国内で就業する外国人労働者はすでに128万人。単純労働者は受け入れないというタテマエは崩壊したと言ってもいい現実なのに、世論とはズレがある。鎖国的な価値観が蔓延することの本当のリスクを認識しているのだろうか?>

安倍政権が外国人労働者の本格的な受け入れという事実上の移民政策に舵を切った。日本の世論は移民受け入れを歓迎していないようだが、そうだとすると、多くの人が望まないまま、単純労働者に従事する移民を大量に受け入れる結果となる。

皮肉なことだが、外国人に対してオープンで、多様な価値観を認める社会ほど、工夫次第で、単純労働に従事する移民を受け入れなくても済む。ワーキングホリデーによって単純労働をカバーしているオーストラリアはその典型といってよいだろう。外国の話を取り上げると、すぐ「単純に比較はできない」といった話になりがちだが、日本人に本当に知恵があるのなら、多くのことをオーストラリアから学べるはずだ。

単純労働者は受け入れないという建前はすでに崩壊している

日本はこれまで外国人が単純労働に従事することを原則として禁止してきたが、小売りや飲食、建設、農業といった分野では人手不足が深刻化しており、外国人労働者に頼らなければ、業務が回らないという状況になっている。

政府は、研修という名目で事実上の外国人労働者を受け入れる「技能実習制度」を導入したが、一部の事業者が劣悪な環境で研修生を働かせるなど、事実上の奴隷労働が横行しており、国際的な批判を浴びるリスクが出ている。すでに128万人の外国人労働者が就業しているというのが現実であり、単純労働者は受け入れないというタテマエは崩壊したといってよいだろう。

今回、改正された入管法では、業種を特定した上で、一定の能力が認められる外国人労働者に対して、新しい在留資格である「特定技能1号」と「特定技能2号」を付与できるとしている。1号の場合には家族の帯同が不可で、在留期間は最長5年、2号の場合には家族帯同が可能で、期間は無制限となっている。

1号の場合には、家族と一緒に暮らすことを許さず、期間が終了した後は、強制的に帰国させるという仕組みだが、実際にはうまく機能しないだろう。日本で長期間生活すれば、結婚したり子供を生む人が出てくるし、在留期間が終了しても、仕事に慣れた従業員を企業側は簡単に手放さない可能性が高い。

日本の場合、10年間滞在していると永住権を取得できる可能性が高まってくることを考えると、今回の法改正はやはり事実上の移民政策であると理解せざるを得ない。しかし政府は頑なに移民政策ではないと主張しており、実態との乖離が激しい。

もし移民政策にシフトするのであれば、それに伴って実施しなければならない施策も多いはずだ。このままでは、発生する諸問題への対応策を一切講じることになく移民社会にシフトする結果となるだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

UBS、米国で銀行免許を申請 実現ならスイス銀とし

ワールド

全米で2700便超が遅延、管制官の欠勤急増 政府閉

ビジネス

米国株式市場=主要3指数、連日最高値 米中貿易摩擦

ワールド

リトアニア、ベラルーシからの密輸運搬気球撃墜へ 空
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story