コラム

外国人にオープンな社会ほど、単純労働者の受け入れは必要ないという皮肉

2018年12月26日(水)13時50分

オーストラリアで単純労働の移民問題が発生しない理由

政府が移民政策であることを認めないのは、日本社会に移民アレルギーが存在しているからである。しかし、移民問題の本質を考えた場合、外国人に対して拒絶反応が強く、社会が閉鎖的であればあるほど、逆に単純労働者の移民に頼らざるを得なくなるというのが現実である。

例えばオーストラリアは、外国人に対してオープンな社会として知られているが、単純労働に従事する移民の問題は発生していない。その理由は、同国が外国人にとって魅力的な場所であるため、ワーキングホリデーの制度を使って一時入国する若者が多く、単純労働の多くは彼等が担ってくれるからである。

オーストラリアは移民大国として知られており、毎年十数万人の移民を受け入れている。しかし同国が移民として主に受け入れているのは、経済に貢献する能力を持った高度人材であり、こうした「技能移民」は全体の7割に達している。残りは豪州人の配偶者や子どもいった「家族移民」になので、仕事を目的とした移民はすべて技能移民と考えてよい。

かつて同国は白豪主義を掲げ、白人優遇の移民政策を続けてきたが、1970年代以降、「多文化主義」を掲げ、白人中心の移民制度は完全に撤廃した。一般的には、あらゆる移民を受け入れる国というイメージが強いが、実際には、経済に貢献する高度人材に限定した上で、移民を受け入れている(人道上の必要性から難民を受け入れる場合には、別の枠組みでの処理となる)。

同国は、都合よく高度人材だけを移民として受け入れているわけだが、賃金が安い単純労働者が不足するという問題は起きないのだろうか。オーストラリアは豊かな国なので、日本と同じく低賃金の単純労働者の人手不足が顕著だが、ここをカバーする外国人労働者は受け入れていない。その理由は、ワーキングホリデーを使った入国者が極めて多いからである。

豪州並みにワーホリがあれば、すべて事足りる?

ワーキングホリデー(通称ワーホリ)というのは、2国間の協定に基づき、外国で休暇を楽しみながら、その間の滞在資金を捻出する目的で一定の就労を認める制度である。期間は1年から2年で、原則として利用者はひとつの国について1回しか利用できない。

就労を認める制度であるといっても、制度の目的は、あくまで双方の若者が、相手国の文化を知るための滞在なので、本格的に労働することはできない。結果として、アルバイト的な短期労働に従事することになる。

オーストラリアは、留学のインフラが整っており、諸外国の若者から人気が高い。今はかなり下火になったが、一時は日本人の若者が大挙してオーストラリアに語学留学していた時代もあった。世界各国の多くの若者が、ワーホリを使ったオーストラリア滞在を望むので、毎年20万人以上の若者がこの制度を使って同国を訪れている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story