コラム

トランプが...ではなく「米国は」もともと分断と対立の国

2017年02月07日(火)15時21分

Delpixart-iStock.

<トランプ大統領の政策は社会に分断をもたらすと見られているが、歴史を振り返ると、米国は対立や分断が常に絶えない国だった。現在の孤立主義も、始めたのはオバマ前政権だ>

トランプ大統領が次々と保護主義的・人種差別的な大統領令を打ち出してきたことで、各国に不安が広がっている。日本のメディアにおいても、トランプ氏の政策は社会に分断をもたらすという論調が数多く見られる。

保護主義的な政策は経済成長のマイナス要因であり、人種差別的な政策が無用な対立を煽ることは間違いない。日本はこれまで、米国を民主主義のお手本としてきただけに知識人らのショックは大きいだろう。

だがその歴史を振り返ると、米国は対立や分断が常に絶えない国であり、折りに触れて暗い面も見せてきた。良くも悪くも米国とはそのような国だという認識が必要だろう。

モンロー主義と欧州に対する嫌悪感

トランプ氏が自国中心主義を前面に押し出したことで、多くの識者は、米国は世界のことを顧みなくなったと嘆いている。だが米国が国際社会のことを積極的に考えるようになったのは、第二次大戦後のわずか70年間だけである。それまでの米国は、常に自国中心主義であり、あまり他国のことを顧みたことはない。

米国は第5代大統領ジェームズ・モンローの時代に、いわゆる「モンロー主義」を掲げ、世界の問題とは一切関わらないという外交姿勢を貫いていた。モンロー主義は厳密には欧州との相互不干渉主義だが、当時の欧州は世界の中心という位置付けなので、欧州との相互不干渉というのは、そのまま世界との断絶を意味している。

モンロー主義の根底には、欧州的なタテマエ論に対する米国人の嫌悪感がある。つまり欧州人が主張するところの人権や国際平和というのは、所詮、欧州主要国の利益を代弁しているに過ぎないという、少し斜に構えた意識である。

トランプ氏の側近で国家通商会議トップのナバロ氏は1月31日、「ドイツはユーロの過小評価を悪用して貿易の優位性を高めている」とドイツを厳しく批判した。トランプ氏の保護貿易主義のターゲットは基本的に中国であり、ユーロやドイツに対して為替政策や貿易政策で攻撃してもあまり意味がないことは共通認識のはずだ。それにもかかわらずドイツを厳しく批判するという意識の根底には、やはり欧州的なものに対する嫌悪感が感じられる。

【参考記事】トランプ政権が貿易不均衡でドイツに宣戦布告、狙いはEU潰しか

訪米した英国(ブレグジットで欧州と袂を分かった国だ)のメイ首相に対して、トランプ氏が友好的な発言を繰り返したこととは好対照である。

孤立主義はオバマ前大統領の時代から

しかも、こうした米国の内向き志向はトランプ氏が突然始めたものではないことにも注目する必要があるだろう。トランプ氏との対比から、国際社会を重んじる大統領というイメージが強くなったオバマ前大統領だが、オバマ氏こそ米国の孤立主義的なスタンスを先鋭化した大統領といってよい。

オバマ氏は、国際社会(欧州社会)から何度も要請を受けたにもかかわらず、頑なにシリア問題への介入を拒んできた。またオバマ氏は、米国史上最大規模の軍縮を行っており、米軍予算を大幅に縮小している。米軍の海外展開の象徴のひとつでもあった沖縄の海兵隊を、大量にグアムに撤退させたのもオバマ政権である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、EUが凍結資産を接収すれば「痛みを伴う対応

ビジネス

英国フルタイム賃金の伸び4.3%、コロナ禍後で最低

ビジネス

ユニリーバ、第3四半期売上高が予想上回る 北米でヘ

ワールド

「トランプ氏は政敵を標的」と過半数認識、分断懸念も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 9
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story