コラム

全斗煥クーデターを描いた『ソウルの春』ヒットと、独裁が「歴史」になった韓国の変化

2024年09月10日(火)15時58分

にもかかわらず、今の韓国で朴政権期から民主化運動に至る時期に関する映画やドラマのヒットが相次いでいるのはなぜか。皮肉だが、それは時の経過とともに、その記憶が薄れつつあるからだ。だからこそ、彼らは実在の人物の名前を架空の名前に置き換え、多分にフィクションを含んだ作品をエンタメとして楽しむことができる。

太平洋戦争にせよ、ナチスのユダヤ人虐殺にせよ、大きな悲劇を経験した直後には記憶があまりにも生々しく、鮮明に残されている。だから、その段階では人々はこれをわざわざ回顧する必要はないし、いわんやそこに作り話をちりばめたりしようと思わない。だからこそ、どんな事件でもそれらを題材にした優れた作品が作られるのは、発生から数十年を経た後になる。


韓国において、権威主義政権や民主化運動を語る作品が多く作られ、人々の注目を集めているのは、彼らがその詳細を忘れてしまったからであり、また、これらの事件があった時代が「歴史」になったからである。そして、過去が「歴史」になる過程もまた、韓国現代史の重要な部分の1つである。この過程については、筆者の近著『全斗煥』(ミネルヴァ書房)でも描写した。関心がある方はぜひ参考にしてほしい。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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