コラム

金沢の「尹奉吉記念館」問題を考える

2025年04月16日(水)17時57分
韓国

尹奉吉の「記念館」問題が金沢でくすぶっている 近現代PL/AFLO

<元韓国KBSプロデューサーのユーチューバーが計画している金沢市の尹奉吉(ユン・ボンギル)「記念館」設置が「炎上」した。今回の設置の動きに現地の在日コリアンや市民団体との連携はなく、激化する抗議活動に地元は困惑している>

バージニア州の州都リッチモンドは、南北戦争時の南部連合の首都が置かれた都市である。今も、南部連合当時の大統領官邸などが保存され、その正当性が雄弁に語られている。

バージニアのみならず、アメリカの南部諸州には「南部の正義」を主張する施設や記念碑が数多く存在する。民主主義国家では多様な意見が尊重されるべきで、その意味では善くも悪くもこれらの施設や記念碑の存在は、トランプ政権下でさまざまな問題に直面するアメリカの民主主義が、本来有する多様性と寛容性を示すと言える。


とはいえ、同様の施設や記念碑が戦争で勝利を収めた北部諸州にも数多く存在するか、といえばそうではない。北部諸州のみならずアメリカの一般的な歴史観では、南北戦争は奴隷制度撤廃のための正義の戦いであり、南部連合の主張は認められないと考えられているからだ。南部連合とその歴史をたたえる記念碑の撤去を求める動きも強く、軍関係施設からの南軍に関わる象徴の撤去を定めた法律も作られている。

このような歴史認識の違いに基づく施設や記念碑をめぐる対立は、日本にも存在する。典型的な事例は現在、金沢市で問題となっている尹奉吉(ユン・ボンギル)の「記念館」設置だろう。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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