コラム

僕とクソダサいマイカップの抱腹絶倒で数奇な運命

2025年05月31日(土)19時12分
旅行とカップ

カップとは長い旅を共にしてきた(イラストはイメージです) STUDIOVIN/SHUTTERSTOCK

<友人から譲られた、安っぽい花柄のカップを僕が何十年も使い続けて旅にも何度も連れて行った切ない理由>

最近、僕は救世軍のチャリティーショップにカップを寄付した。彼らがそれを20ペンスほどで売ってくれて、良い家にたどり着き、そこでまた新たな生活を始めることを期待して。

だから当然のことながら、このカップと僕との特別な関係について話したくなったのだ。


トッドとキャロルが1998年頃に東京を去るとき、僕にこのカップを譲ってくれた。ディナーセット一式でくれたのだが、後に僕のガールフレンドが、「安っぽいから」という理由でカップ以外を勝手に捨ててしまった。

これに僕は少々腹を立てたけれど、彼女には一理あったことを認めざるを得ない。実際、トッドも最近、それに同意した。ちょうど僕が、このカップ、返したほうがいい?と彼に聞いたので。

彼はかつてこのカップを所有していたことを忘れてしまっていたのだが、カップの所有権の半分はキャロルにあるはずであり、今や2人は離婚していて共同親権で厄介なことになるので彼に返すのは複雑な問題だろう、と僕たちは判断した(もちろんジョークだ)。

ガールフレンドが手を下した2005年頃の「大処分」をこのカップが生き延びたのは、僕が当時働いていたニューズウィーク日本版のオフィスで、プラスチックカップでコーヒーを飲まなくていいようにと、持って行ったから。だからこのカップは、読者があの時代で思い出す数々のニュースストーリーに取り組んでいた当時の僕のかたわらに、いつも寄り添っていた。

万が一壊されてもいいように

東京を離れてイギリスに帰国することになった時、わざわざこのカップを持って行ったことに、僕自身でさえ驚いている。たぶん、20箱も荷物があったので、カップ1個くらい増えてもたいした違いはないと思ったのだろう。

このカップはイギリスで僕が14年前に家を買って以来、ずっとキッチンに居座っていて、公式には「僕の一番気に入っていないカップ」だった。作業員の人などが家に来た時には、万が一壊されてもいいように、僕はこのカップでお茶を出した。そして壊されることは一度もなかった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中ロ首脳、中東情勢巡り近く電話会談へ=ロシア大統領

ビジネス

米輸入物価、5月は前月比横ばい エネルギー製品の低

ワールド

支援物資待つガザ住民59人死亡、イスラエル軍戦車が

ビジネス

米5月小売売上高‐0.9%、4カ月ぶりの大幅減 自
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story