コラム

僕とクソダサいマイカップの抱腹絶倒で数奇な運命

2025年05月31日(土)19時12分

数年前に僕は、ヨーロッパ周遊の大旅行をする時にこのカップを持って行くことにした。

たぶん途中でなくしたり壊れたりするだろうから、カップにとって、これが最後の外出になるだろうと思った。でもそうなっても構わない。むしろうれしいかも。


カップは無傷で家に帰った。電車で約1万1000キロ、そしてそれ以上の距離を3回のフェリー乗船で。バルト三国の4つの首都すべてを訪れた。

そこで、2回目の、さらに大規模な旅行でも再びやってみた。同じ理屈――これが最後の外出だ。

僕がこれまで訪れた中での最北端、ノルウェー西岸のベルゲンへ。そしてスペインのバスク地方にあるサン・セバスチャンにも。デンマーク東部のオーフスの旅ではおしゃれなシャツを、イタリアのローマではお気に入りのトレーニングウェアを、南フランスのアビニョンでは便利な「エバーシャープ」の小型キッチンナイフをなくしたが、このカップは生き延びた。

荒くれサッカーファンにからまれて

旅の途上で、カップが名声を得た瞬間もあった。僕はどういうわけか、何百人もの二日酔いのイングランドサッカーファンと一緒の電車に乗り合わせてしまった(イングランドとウクライナの試合があったが、ウクライナは自国で開催できずポーランドのブロツワフの競技場を借りていて、僕はちょうどポーランドにいた)。

僕とカップは、彼らの非公式マスコットのような存在になった。「こいつは旅行にカップなんか持ってきてるぞ!」「おい、カップガイ、ビールいかがですか?」「きっとやつがフラスコから注いでいるのはウォッカだぜ......カップの中身を見せて!?」

僕は彼らに、この愛されていない小さすぎる花柄の、コーヒーでも紅茶でも赤ワインでもなんでも用のカップを、むしろなくしてしまいたいくらいなんだ、と事情を話した。

「窓から投げ捨ててやるよ」と彼らは申し出た。「いや、自然死でなくちゃならない」と僕は彼らに言った。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ナスダック、中国企業や取引薄い企業の上場基準厳格

ビジネス

スウェーデンEVポールスター赤字拡大、米関税など響

ワールド

米ホワイトハウス、WTOを資金削減リストから除外

ビジネス

EXCLUSIVE-BYD、25年販売目標を16%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story