コラム

「生物学的女性が、女性である」が画期的判決になってしまう時代

2025年05月02日(金)15時36分
英最高裁判決にトランスジェンダーの権利擁護派が怒りのデモ

英最高裁判決を受け、トランス擁護派は怒りのデモ WLKTOR SZYMANOWICZ-NURPHOTOーREUTERS

<異論も議論も許さなかったトランスジェンダーの権利擁護の急進的な潮流に、英高裁が判断を示した>

イギリス最高峰の法律家たちはここのところ、女性とは何かを決定する任務に専念してきた。彼らは、生物学的性別が女性である人が女性である、と判断した。

これは、何千年にもわたる多くの文明のあらゆる人の意見とほぼ同様だ。


にもかかわらず、今の時代においては、これは「画期的な法的判決」になる。英最高裁判所の判決は、いかにしてこれが関連の法律に適用されるか、誰が女性スポーツ競技に出場できるか、誰が女性専用施設(更衣室や病棟、DV被害者保護施設など)を利用できるかについて指針を示している。

これによりイギリスでは、何よりまず圧倒的に「常識が戻った」との安堵が広がったが、それが国の最高裁に付託されねばならなかったことにある種の不信感が残った。

一方、一部の人々にとっては驚きと絶望の判決になった──「数十年に及ぶ進歩が台無しになる!」「イギリスで弱い立場にある、疎外された人々の心を傷つける!」「トランスジェンダー嫌悪が蔓延する!」

トランスジェンダーへの法的保護はしっかりある

注目すべきは、トランスジェンダーに対する法的保護はしっかり残るということ。例えばトランスジェンダーという理由でトランス女性を攻撃したら、それは単なる犯罪ではなく、他の動機による同程度の暴力行為よりも重い刑を科されるヘイトクライムに当たる。トランス嫌悪とみられる暴言だけでも(人種や宗教、障害や性的指向に対する暴言と同じく)犯罪になる。

だから今回の裁定は、主に権利のバランスに関するものなのだ。つまり、女性と女児が、歴史的に見れば比較的最近になって勝ち取った特権を享受する権利だ。例えば女性アスリートは、まだまだ男性選手と同等の資金や支援を得るのに苦労している。なのに、男性として思春期を過ごし、テストステロンのおかげで筋肉量を増やした人が、女性として競技するのは公平だろうか? それは「同じ土俵」とは言い難い。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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