コラム

「生物学的女性が、女性である」が画期的判決になってしまう時代

2025年05月02日(金)15時36分

不思議なことに、今回の判決には法的に曖昧な部分が残されている。弁護士らは、この生物学的女性の定義が差別禁止法と衝突するケースが必ず出てくるだろうと指摘している。

むしろこの判決は、トランスジェンダーの権利擁護活動家が掲げる主張を受け入れる方向へと何年も漂ってきた後に、方向性を示す性格のものだ。


彼ら活動家の主張は主に2つの特徴に集約される。行きすぎと、好戦性だ。まず、「トランス女性は女性である」とのスローガンを掲げる。例外も反論も議論も受け付けない。反対する人は「トランス嫌悪」だと非難された。

同様に、苦労して勝ち取った女性の権利と「トランスの権利」が衝突すると指摘した女性は、「TERFS(トランス排除的ラジカルフェミニスト)」とこき下ろされた。デモではよく「TERFSを殺せ」のスローガンが目についた。

「ハリー・ポッター」の作者も大炎上

「トランスの権利」の潮流に逆らうのは危険なことだった。「ハリー・ポッター」の作者J・K・ローリングは、フェミニスト的視点からあえてそれを行い、ネットでは大炎上し、彼女のおかげでスターになった元子役俳優たちから非難を浴びせられた。

同じくトランス嫌悪と批判されたサセックス大学のキャスリン・ストック教授は、辞職に追い込まれるほどの迫害を受けた。今年に入り規制当局は、彼女と言論の自由の保護を怠ったとして、大学側に多額の賠償金支払いを命じた。

ローリングもストックも、トランスジェンダーの存在を否定したり、社会から拒絶されるべきだと唱えたわけではない。彼らの見解は大まかに言えば、今回最高裁が決定したことと同じ、ということだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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