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英保守党は選挙を諦め、中間層を捨てる...その理由と3つの兆候
これが一因となり、2019年の総選挙では労働党支持が根強い「赤い壁」地域で保守党が多くの議席を獲得できた。バーミンガムからマンチェスターを結ぶ第2段階の支援を打ち切るとしたスナクの姿勢は、こうした地域の有権者への裏切りであるだけでなく、見当外れとの批判も出ている。
内陸部のバーミンガムで高速鉄が打ち止めになることは、中途半端な結果をもたらす。実質的な経済的利益は何も見込めないのにかえってコストが膨大になる。そしてこの場合も、HS2実現を前提に計画を立て、投資してきた企業がはしごを外された形になってしまう。
3つ目に、保守党は何十年も「性悪の党」とのイメージから脱却しようと努めてきたが、その努力も放棄した。国が不法移民に厳格に対処し、真の難民だけ難民認定するというのは理解できる。だがそうするからには、人権を重視し世界全体の利益に積極的に貢献する態度も同時に示さなければならない。
パンデミックのさなか、イギリスはその寛大なODA支出を国民総所得の0.7%(世界最高レベルだった)から0.5%へと縮小させた。その後も、亡命申請中の難民をルワンダなどの「安全国」に移送したり、巨大貨物船に収容したりするなど、冷酷に見える政策を実行・計画している。
とはいえ、これら全ての背後には一定の論理がある。選挙で勝つことを諦めた政党は、中間層を捨ててコア支持層を熱狂させる政策を採用することで、全滅を避けようとしがちだ。例えば今年の補欠選挙では、大気汚染防止のための「超低排出規制ゾーン」をロンドン郊外にまで拡大する計画に保守党候補者が反対を表明することで、この規制に腹を立てていた同地域内のドライバーの心をつかみ、僅差で勝利した。
次回総選挙で保守党の負けはかなり明確になっている。ただし、労働党が勝てるかどうかははっきりしない。世論調査では野党がリードしているが、労働党のキア・スターマー党首は超控えめな戦略を取っている──何もせず何も言わず、不戦勝を狙っているのだ。
だがそれも裏目に出る可能性がある。多くの人々が保守党の退場を望むものの、スターマーの労働党に過半数の票を投じるほどの熱意は、たぶん持ち合わせていない。

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