コラム

「勝ってもホッとするだけ」「負けの痛みは永遠」日本よ、サッカー強豪国の苦しみへようこそ

2022年12月14日(水)14時55分
試合後、ハグする前田大然とクロアチアのヨシプ・ユラノビッチ

日本は決勝トーナメントでクロアチアに敗れたが HAMAD I MOHAMMED-REUTERS

<Jリーグ発足の年から日本サッカーを見守り続けた「イングランドの日本ファン」が断言、日本は名実ともに世界のサッカー強豪国になったが......>

僕が日本に来て最初の年に、Jリーグは発足した。ラッキーなことに、短期間ガンバ大阪のインターンシップを経験して、この黎明期を間近で見ることができた。

僕の最初の感想は、興味をそそられるほどの才能が全チームに満遍なく存在するわけではないな、ということ。ファンはサッカーを「分かって」いなかったし(例えば選手がただロングキックを蹴っただけで歓声が上がったし、今となってはあの騒がしい「チアホーン」を覚えている人すらいないだろう)、1年目のド派手さは泡のごとく立ち消え、日本は「アジアのベストチームの1つ」以上に行くことに苦戦していた。

経営危機に陥るクラブが出てきて、スポンサーが撤退し、観客数が落ち込み、経営陣がJリーグのフォーマットをいじくり続けるなかで、僕の不安は確信に変わっていった。
 
そんな僕が間違っていたと証明されて、こんなにうれしいことはない。当初の疑念は希望へ、さらには畏敬の念へと変化した。日本は今や、「ビッグな」国々を倒した実績を誇り、欧州のリーグを彩る選手たちを擁する、称賛の声高き世界のサッカー強豪国だ。

僕はたまたま、スコットランドリーグのシーズン終盤にグラスゴーに滞在していて、セルティックの「ジャパニーズ・ボーイズ」愛を目の当たりにした。プレミアリーグのアーセナル(僕が応援するクラブだ)では、冨安健洋選手が人気抜群だ。日本代表は単なるワールドカップ(W杯)の「常連出場チーム」ではなく、大会の「挑戦者」になった。

僕が2022年W杯の日本代表をどれだけ気にかけていたかは、自分でも信じられないほどだ。思うにその理由は、彼らがサッカーのスペシャルさ――完全に筋書きのないドラマであること――を思い出させてくれるから。日本がドイツ「か」スペインを破ることは「可能性としてあり得る」と思っていた。でも、両方を下すとは思わなかった。あり得ない。そして、よもやコスタリカに敗れるとは思わなかった。まさか。それでも、事態はそうなった。クロアチア戦のハーフタイムで、僕は日本が負ける気がしなかった......。

こんなものは、サッカーのほかにないだろう。普段は冷静な大人さえも、喜びや絶望の涙に暮れさせるのだ。

極度のストレスを味わい、敗北の痛みは永遠

僕は厳密に「日本ファン」とは言えないが、「イングランド人の日本ファン」とは言える。そんなわけだから日本がせっかくのチャンスをふいにした時には熱狂的な応援はできないし、日本が負けた時に拍手することだってある。

僕は日本人サポーターが好きだが、彼らのようにはなれない。僕は「何があっても日本代表、大好き」と言うよりは、「さっさと勝ちを決めろよ!」と叫びたくなる。あるいは「ダラダラするな、いまシュートしろ!」「強くキックしろ!」「今のはお袋でも得点できたぞ!」などと。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story