コラム

イギリス人から見た日本のプリンセスの「追放劇」

2021年09月28日(火)15時00分

実際、多くの点で彼女の「追放」はより徹底したものになる。エドワード8世はウィンザー公爵、ヘンリーはサセックス公爵と、いずれも高貴な称号を維持することができた。どちらも元王族の立場を利用した、あるいは「利用せずにはいられなかった」。

ヘンリーのセレブとしての地位は英女王の孫であるという事実のおかげなのに、彼が英国内や英王室でどう扱われてきたか自由に不平不満を話していることは、イギリスではいくらか嫌悪感を持って受け止められている。

一方で眞子内親王は、何の肩書もない小室夫人になろうとしている。この夫妻がオプラ・ウィンフリーの番組に出演して、日本のマスコミを非難したり皇室の暴露話をしたりしてメディア界で地位を築こうとすることなんてあり得ないだろう。

もちろん、カネという厄介な問題もある。人々は、自分の期待に添わぬ人物の贅沢な生活のために自分のカネを使われることには気乗りしない。だが、並外れた特権の中で育てられた人物に、一般市民と全く同じように生活しろと求めるのは、少々フェアでないこともまた厄介な事実だ。残念だが必要な清算手段として、何らかの資金手当ては望ましいだろう。

ヘンリーの場合、英国内の自宅改修費用240万ポンドを「返済」したことで、世論はいくらか落ち着いた。でも彼は、父であるチャールズ皇太子から離脱「移行」のためにかなりの資金援助を受け、母であるダイアナ元妃の巨額の遺産も受け継いでいる。結局は返済金も王室の資産に由来した「私財」から出ているわけだから、茶番じみている。

眞子内親王が一時金の受け取りを拒否したとしても、こうした英王室式の「プレーブック」に従うことになるだろう。彼女の将来の生活を安泰に支える手段は間違いなくいくつもある。

彼女の配偶者選択は多くの国民を失望させたかもしれないが、それよりイギリス人から見てただ1つ不可思議なのは、眞子内親王ら皇族女性が、誰と結婚するにしても皇室から追い出されるという事実のほうだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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