コラム

イギリス人から見た日本のプリンセスの「追放劇」

2021年09月28日(火)15時00分

10月にも婚姻届を出すと報じられている眞子内親王 Guadalupe Pardo-REUTERS

<英王室で起こった過去の「ふさわしくない結婚」と同じく眞子内親王も皇室を追われ、亡命のように国を出るようだが、王室(皇室)由来の資金援助を受け続けるだろうこともお約束どおりだろう>

君主制は、本質的に不公平なものだ。ある特定の一家が複数の宮殿に暮らし、国民の税金で特権的な生活を送り、大イベントに出席し、着飾り、晩餐会に参加する......。もちろん、そこにはマイナス面もある。着飾らなければならないし、大イベントに出席しなければならないし、大抵は大衆の注目にさらされる。王族であることの代償の1つは、私生活が必ずしも私生活ではないこと。国事になってしまうのだ。

有名な話だが、1936年のイギリスで、当時の国王エドワード8世は、離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンと結婚するために退位を余儀なくされた。英君主、ひいては英国国教会の最高権威者として、存命中の2人の元夫がいる女性との結婚は、政治的に受け入れられざるものだったためだ。

時代は変わり、2018年にヘンリー王子が離婚歴のあるアメリカ人女性と結婚することには異論は起こらなかった。だが妻メーガン妃が英王室になじむことは求められた。

英王室は役割を果たすために働き、イギリスに貢献しなければならない(と、国民からも思われているし王室メンバーも自覚している)ことから、時に「ザ・ファーム(会社)」と呼ばれる。王族は労せずして得た特権の分だけ身を尽くさなければならないのだ。

英王室を離脱したヘンリー王子夫妻

ヘンリー夫妻がその役割を果たせない、あるいは果たしたくないことが明らかになった時、2人は英王室を去らねばならなかった。20年の彼らの王室離脱は苦しいものだったが、よい「会社」と同様、英王室は事態をうまく収拾して営業を続けた。

王室メンバーが「ふさわしい」相手と結婚して当然とされるのなら、王室メンバーが「何があろうと結婚する」ことを望んだときにどうすべきかという仕組みも存在するようだ。つまり、彼らは王室を後にして、ある種の「亡命」のような形で外国に移り住むのだ(エドワード8世はフランスに、ヘンリー夫妻はアメリカに渡った)。

一般のイギリス人からすれば、眞子内親王が小室圭氏と結婚する場合、提示されているのがおおむねこの手法であることは明らかなようだ。皇族ではなくなり、彼女の選択(それが正しかろうと間違っていようと)に「失望」するであろう国民の下を去って国を出るという手法だ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story