コラム

「既存のもの」に甘くて「新しい技術」に厳し過ぎない?

2021年07月13日(火)17時00分

自動運転車の安全性には高いハードルが設定されている Shamil Zhumatov-REUTERS

<問題は山ほどあっても「既に存在するもの」は大目に見られるのに、自動運転車や電動スクーターなど「新たに導入されるもの」には必要以上に厳しい基準が課される>

友人たちとよく言い合うのだが――もしも今日アルコールが発見されたのだとしたら、きっと明日には禁止されているだろう。

飲み過ぎは健康に良くないから節度を持って飲まなきゃ、と自分たちを戒めるために言っているのだけれど、一方で、状況がちょっとでも違えばアルコールは許されないだろうな、とありがたく味わうためでもある。

「既に存在するもの」に対する先入観と、「新しいもの」に対する偏見に、僕は興味を引かれる。人間の思考方法からすれば当然のことなのかもしれないが、論理的とは言えない。

たとえば、人は車を運転できる。規制も課された。速度制限や運転免許制度、自賠責保険加入・・・・・・。でも、大気汚染や交通事故死などの問題があるにもかかわらず、車を禁止すべきだという提案は起こらない。

一方で自動運転車は、新しいものだからというのが主な理由で、承認されるまでに長く厳しい道のりを歩んでいる。それでも当然ながら、自動運転車だって、飲酒した人が運転することはできないし、犯罪者が警察の追跡を逃れて猛スピードで運転することはできないし、スリルを味わいたいティーンエイジャーが田舎道を運転することもできない。自動運転車は単に「通常の自動車よりずっと安全」であることよりはるかに高いハードルを設定されている。

2018年に自動運転車が歩行者をはねて死亡させる事故を起こしたときには、大きく報道された。もしも新聞がこの調子で不注意なドライバーが起こした死亡事故を全て報道していたら、世界で日々4万5000機もの飛行機が飛び立ち、しかも安全に着陸していることを逐一報じる紙面スペースがなくなってしまうではないか。

電動スクーター試行にも不満の声

僕の街でちょうど今、イギリス国内での試験運用都市の1つに選ばれて試行されているものがある。レンタル電動スクーターだ。ロックダウン(都市封鎖)の最中に最初にこれが導入されたときは、ちょっとした目新しさがあった。

たいていは、若者が面白半分で使っていた。夜間の空いた道路で若者がグルグルと電動スクーターに乗っているのを目にしたが、彼らは別にそんなふうに使うのが目的だったわけではない。若者たちは、ごく短距離の移動なら、大気汚染も街の交通量も減らせる「車に代わる選択肢」として、電動スクーターを使っていたに違いない。丘が多くて自転車をこぐのがなかなか大変な僕の街には、電動スクーターは向いていると思う。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

お知らせ=重複記事を削除します

ビジネス

高市首相、18日に植田日銀総裁と会談 午後3時半か

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合

ワールド

ポーランド鉄道爆破、前例のない破壊行為 首相が非難
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story