コラム

「既存のもの」に甘くて「新しい技術」に厳し過ぎない?

2021年07月13日(火)17時00分

電動スクーターの個人所有は今も違法だが、この施行実験はそれを認めるべきか、認めるならどんな条件下で行うべきかを探るためのものだった。僕は賛成だ。電動スクーターはスピードも出ないし(下り坂を走る自転車よりずっと遅い)、毎日やってくる仮免運転練習のバイクの一団の耳をつんざくような騒音に比べれば1000分の1の音もしない(仮免練習者は安全のためマフラーなしのバイクでの運転を許可されている)。

それなのに、ここでも新たなものに対する偏見が広がっている。電動スクーター利用者が(時には)走行禁止されているはずの歩道を走っている、と人々は文句を言っている。歩道の不都合なところに電動スクーターが止められていて歩行者の邪魔になっているという声もある。「どこからともなく」急に背後に現れるとの苦情もある(電動スクーターはほぼ無音だ)。

とはいえ、歩道でティーンエイジャーが騒がしくスケートボードで走っているのに文句をつける人はいない。違法のはずだが、自動車が歩道に乗り上げて駐車しても抗議する人はいない(この駐車方法は道路を走行する自動車には邪魔にならない代わりに歩道の車椅子やベビーカーの通行は妨げる)。

僕はしょっちゅう、アイドリングしている運転手に大気汚染の元ですよ、と指摘しては変わり者扱いされている。駐車場のせいで住宅や緑地など街のもっと必要なスペースが削られていると声を上げる人もいない。僕の家の前はその典型的な例だ。1950年代に駐車場を作るため、住宅が取り壊された。20年ほど前に地方議会が駐車場を公園に転用することを公約したが、「街の中に駐車スペースが必要だ!」との声を受けて実現することはなかった。

だから、僕の家の前の歩道で2台のスクーターが30センチ足らずの幅を取って止められているのを見たとき、僕が最初に考えたことは、そこに停車している何十台もの大型ディーゼルSUV車―――新しい乗り物ではないからほとんど誰も気にとめていない――のどれか1台でもどければ、スクーターを10台は止められるだろう、ということだ。

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電動スクーターが場所も取らず環境にも優しいのは一目瞭然(筆者撮影)

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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