コラム

とんでもない失言と共に親近感を英王室に遺したフィリップ殿下

2021年04月26日(月)14時30分

大まかに言って、イギリス国民は一方において彼の下手な口出しの数々をとんでもないと思っていても、他方においては彼の思い付きの冗談を大目に見てきた。僕たちは彼の発言を話題にし、どこまでならOKか、どれは度が過ぎているか、と互いの反応を探り合った。君なら、どこで線引きする?というわけだ。

はっきり言ってほとんどのイギリス人は、「細長い目」発言は面白いというより不快だからアウトだと感じた。どんな評価基準にしたって落第だ。でも、フィリップがイギリス人学生と交流しようとして下手に言ってしまった言葉にすぎない、と擁護する人もいるだろう。

ただ、別のときには、彼の冗談が本当に笑えることもあり、これは大事なことだが、悪意は全くなさそうだからという理由で「きわどい」発言も多くの人が許した。

そうしたやり方はイギリスの一般市民の間でも互いに当てはまるルールであって、いかなる差別的ニュアンスも許すまじとした「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)派」のルールとは異なる。そんなわけで、僕たちはフィリップ殿下を、コメディーの天才ではなくて、時には悪気のない冗談で一般人のように「失礼になる権利」だってある人、と捉えていた。

僕のような王室支持派ですら、王室メンバーを違う惑星の生き物のように見てしまいがちだ。彼らのアクセントはおかしいし、しきたりも奇妙(家族ですら女王にお辞儀し、片膝を付くのだ!)。でもフィリップはもっと親しみやすいタイプ――時代に付いて行けないちょっと変わり者の大おじさんだった。彼から失礼な言葉を浴びせられた人の多くは、失言など気にしない、むしろ軽口をたたいて歩み寄ってくれた、傲慢に振る舞うよりも王室の尊大さを打ち消してくれた、と語っている。

偶然にも、彼が不快にさせた多くの人々(インド系、中国人、豪先住民、肥満の人、ジャーナリスト、摂食障害の人......)の中に、僕の生まれ故郷であるロンドン郊外の町の「ロムフォード人」も含まれる。ロムフォードは文化的僻地と評判の、イケてない町だ。フィリップが女王と共にこの町を訪れたとき、女王に訪問をお願いする手紙を送った14歳の生徒に向かって、彼はこう言った。「それで、君は字が書けるの? よくできたね!」

僕は先日、ロムフォードに住む旧友たちや家族にこの話をした。彼らは皆、大ウケだった。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story