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とんでもない失言と共に親近感を英王室に遺したフィリップ殿下
大まかに言って、イギリス国民は一方において彼の下手な口出しの数々をとんでもないと思っていても、他方においては彼の思い付きの冗談を大目に見てきた。僕たちは彼の発言を話題にし、どこまでならOKか、どれは度が過ぎているか、と互いの反応を探り合った。君なら、どこで線引きする?というわけだ。
はっきり言ってほとんどのイギリス人は、「細長い目」発言は面白いというより不快だからアウトだと感じた。どんな評価基準にしたって落第だ。でも、フィリップがイギリス人学生と交流しようとして下手に言ってしまった言葉にすぎない、と擁護する人もいるだろう。
ただ、別のときには、彼の冗談が本当に笑えることもあり、これは大事なことだが、悪意は全くなさそうだからという理由で「きわどい」発言も多くの人が許した。
そうしたやり方はイギリスの一般市民の間でも互いに当てはまるルールであって、いかなる差別的ニュアンスも許すまじとした「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)派」のルールとは異なる。そんなわけで、僕たちはフィリップ殿下を、コメディーの天才ではなくて、時には悪気のない冗談で一般人のように「失礼になる権利」だってある人、と捉えていた。
僕のような王室支持派ですら、王室メンバーを違う惑星の生き物のように見てしまいがちだ。彼らのアクセントはおかしいし、しきたりも奇妙(家族ですら女王にお辞儀し、片膝を付くのだ!)。でもフィリップはもっと親しみやすいタイプ――時代に付いて行けないちょっと変わり者の大おじさんだった。彼から失礼な言葉を浴びせられた人の多くは、失言など気にしない、むしろ軽口をたたいて歩み寄ってくれた、傲慢に振る舞うよりも王室の尊大さを打ち消してくれた、と語っている。
偶然にも、彼が不快にさせた多くの人々(インド系、中国人、豪先住民、肥満の人、ジャーナリスト、摂食障害の人......)の中に、僕の生まれ故郷であるロンドン郊外の町の「ロムフォード人」も含まれる。ロムフォードは文化的僻地と評判の、イケてない町だ。フィリップが女王と共にこの町を訪れたとき、女王に訪問をお願いする手紙を送った14歳の生徒に向かって、彼はこう言った。「それで、君は字が書けるの? よくできたね!」
僕は先日、ロムフォードに住む旧友たちや家族にこの話をした。彼らは皆、大ウケだった。
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