コラム

ロックダウンに耐え忍んだ末のイギリスの規制強化は誰のせい?

2020年09月24日(木)13時20分

ロンドンの街頭でロックダウンやマスク着用に反対する人たち Henry Nicholls-REUTERS

<新型コロナウイルスの厳しいルールが緩和されていくかと思われた矢先、第2波襲来でさらに新たな規制が課された背景には、一部の「マスク軽視」層が>

イギリスで新型コロナウイルスの規制が数カ月ぶりに強化され、嫌な週になった。これまでずっと、帰宅後隔離にならないように外国渡航を取りやめたり訪問国を変えたり、局地的ロックダウン(都市封鎖)に耐えたりしてきたが、概して僕たちは、規制緩和の時代――あるいは、医療崩壊を阻止するためとして行われた3月の3週間にわたる非常事態で奪われた自由を徐々に取り戻していく時代――に突入したと考えていた。

このままでは医療崩壊が起こるぞと叫ばれてからは既に長い時間がたったが、その上また、唐突に新たなルールが設定された。7人以上のグループで集まってはいけない、というものだ。これはたとえば、僕の妹(子供が4人いる)は夫と子供1人を置いていかないと、両親に会いに行けないことになる。あるいは、公園で妹一家がピクニックをしているのに出くわしても、僕は一緒にお茶一杯飲むことさえできないというわけだ。警察は、このルールは厳格に施行されると言っている。もしも隣人がルールを破っていたら、ためらわず指摘してあげるように、とも言われている。現実的にはどちらも起こらないだろう。

パニックまっただなかで最大限に厳格なロックダウンが敷かれていたときでさえ、イギリス全土で警察が徴収した罰金はほんの数千件だった。外国から帰国した人々が規定通り自主隔離を守っているかどうかも、特にチェックはされなかった。全ては自主性に任せられたが、かなりの割合の人がきちんと従っていたから、たいして問題にもならなかった。

だが、マスク規制は話が違った。マスク着用を義務付けられたうえで、再び買い物をしたり交通機関を利用したりできるようになったが、何らかの理由で10%前後の人々はマスクを着用していなかった。店員らも客に強制しようとはしなかった――喘息があるとか他にも「免除」される理由があるとか言われて、客と口論になるのは避けたいと思うのも当然だ。このルールを軽視する風潮が広がっていたにもかかわらず、警察はほとんど何も介入しなかった。

その結果、さらなる10%前後の人々が「オーケー、全員必須のルールじゃないならわざわざ私が守る必要なし」と考えて加わってしまった。

むしろ罰金付きのほうがよかった?

僕はこの期間中にロンドンを訪れたが、地下鉄に乗っている家族連れが皆、マスクをつけていなかった。店の中には、口も鼻も覆わずマスクをあごに下ろしている人々がいた。マスクをつけてバスに乗り、運転手の横を通り過ぎるやいなやマスクを外す人々もいた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story