コラム

英高級住宅地で繰り広げられる、移民と異文化と犯罪と混乱の大カーニバル

2019年09月05日(木)18時20分

ノッティングヒルのカーニバルはヨーロッパ最大のストリートイベントと言われている Toby Melville-REUTERS

<今では最富裕層が住む地域になったノッティングヒルで、1960年代から続くカリブ系移民のカーニバルは、大盛況で活気に満ちているが毎年トラブルも多発している>

僕は毎年、ノッティングヒル・カーニバルに「参加」していて、そのたびにこれについて書かなきゃと思っている。でも、これといった主張がみつからず、書かずじまいのまま。今年は、たとえ異なるバラバラな話題の寄せ集めになったとしても、これについて書いておこうと決めた。

まず、このカーニバルは一大祭典だ。200万人ほどが来場し、「ヨーロッパ最大のストリートイベント」ともよく言われる。騒がしくて活気に満ちていて、開催地のロンドン西部地区を占領して行われる。8月最終週の週末(祝日・バンクホリデーの週末)に行われるから、夏の終わりを告げるものでもある。

そして、いくぶん物議を醸すものでもある。地元の多くの人はこのカーニバルを好いておらず、スタジアムとか周囲を取り囲んだ場所といった会場の中で、チケット制にして行うべきだと話している。おおむねノッティングヒル地区は今、最富裕層が暮らす地域になっていて、彼らはこのカーニバルに何らつながりを感じていない。

彼らはカーニバルをちょっとした「侵略」とみなしている。だけど、1960年代にこのカーニバルが始まった当時は、この地区にはカリブ系移民が多く住んでいて、現在暮らしている富裕層の多くがここに移ってくるずっと前からカーニバルは続いていた。今でも相当な数の黒人がこの地区に住んでいて、彼らのほとんどが公営住宅に入っている。彼らにしてみれば、この地区の「高級住宅地化」こそ本当の「侵略」だろう。

僕が毎年通うようになったのは、ある意味偶然のことだ。友人がこの地区に家を持っていて、多くの地元民と同様に彼も毎年この時期、休暇で旅行に出ている。彼は僕に、家に滞在しないかと勧めてくれて、わざわざカーニバルを見に行くというよりは、買い物や散歩のついでにちょうどカーニバルに遭遇するかもね、と言った。友人は決してカーニバルを敵視しているわけではないけど、これは彼にとって「一石二鳥」といったところ。家の近所が「ノーマル」とは程遠い状態になっている時期に、毎年恒例の夏の旅行に行くのだ。各地から人々がこの地域を訪れる時期に、ここの住民は脱出するというのは、明らかに皮肉なことだろう。

このカーニバルはただ騒々しいというだけでなく、ほかにも深刻な厄介ごとが付きまとう。道路は通行止めになり、バスは迂回運行し、地下鉄は大混雑する。路上での酔っ払いや玄関先での放尿もよくあることだ。人々は堂々とドラッグを吸い、売っている。警備は厳重になり警官も増員されるが(これを書いている間も上空で警察ヘリの音が響いている)、警察も全ての犯罪者を逮捕するわけにはいかず、あらゆる法律をきちんと執行するためというよりは全体的な秩序を維持するために出動している。

悪夢のシナリオは、通常自分の縄張りに固執する麻薬ギャングのライバル同士が、カーニバル中にまかり間違って鉢合わせしてしまう事態だ。毎年、武器携帯やスリなどで逮捕される者が何百人といる。恐らく最も衝撃的な統計は、毎年数十人の警察官が負傷しているというものだろう。だがカーニバル運営組織は、トラブルにばかり注目するのは不公平で、人種差別的だと主張する。例えばグラストンベリー音楽フェスティバルのような他の大イベントだって、似たような問題はあり犯罪率だって同じようなものではないか、と。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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