コラム

英高級住宅地で繰り広げられる、移民と異文化と犯罪と混乱の大カーニバル

2019年09月05日(木)18時20分

地元の店は窃盗や窓を割られるのを恐れて、窓には板を張り、多くの店がこの週末の間は休業する。カーニバルのルートに沿ってずっと、通りに面した家々やアパートが板張りされている。これらの板張りのいたるところに、激しい落書きがされる(ベルリンの壁みたいに)。以前の板張りを使い回していて、でも板をバラバラに取り付けるから、2年前の「絵」がまるでパズルみたいにごちゃごちゃに並んでいる、という建物もある。

nhcarnival01.jpg

落書きだらけの板張りを翌年以降にも再利用するため片付ける男性(撮影:コリン・ジョイス)

カーニバルはその場にいると怖いというほどではないが、僕は常に警戒を怠らないし、身を守るすべをいつでも意識している。それに、全体的に漂う無秩序と反社会的態度には驚かされる。路上に翌朝残されたおびただしいゴミ(と嘔吐物)にはうんざりする。とりわけ不快なのは、ドラッグを使用した証拠に、無数の金属製小型缶が散らばっていること。これには笑気ガス(亜酸化窒素)が詰められていて、手軽で安くハイになるために吸うのだ。

nhcarnival02.jpg

カーニバルの翌朝、路上にはドラッグ使用の残骸である無数の小型缶が散らばっている(撮影:コリン・ジョイス)

僕にとって、カーニバルの最良の時は、始まる前日だ。地域一帯に地元の黒人住民のざわめきが広がる。彼らは何カ月もこのカーニバルを待ちわびていて、準備に大忙しだ。僕にはその気持ちがよく分かる。彼らはカーニバルを成功させたいし、トラブルなど起こってほしくない。伝統のスチールバンドが最終リハーサルを行い、カーニバルの正式スタートとなる前夜にコンペが開催される。小さな露店が並び、ハッピーな雰囲気が漂っている。

僕は昨年、偶然このカーニバル前日の様子を目にして、すごく魅力的でフレンドリーだと感じた。それこそまさに、このカーニバルが誕生した当初、まだこれが地元の文化的アイデンティティーを祝う祭典であって、ドラッグと酒で盛り上がろうとする何百万人もの人々が「ハイになる」絶好の機会だと押し寄せてくる全国的なイベントになる前に、このカーニバルそのものに感じられていた本来の雰囲気なのだろう。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「CT写真」で体内から見つかった「驚愕の塊」
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 10
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story