コラム

イギリスのエネルギー価格、果てしない上昇の元凶は......

2019年03月01日(金)16時40分

イギリスのエネルギー料金の値上がりはもはや市場原理では説明できない Olivia Harris-REUTERS

<イギリスではエネルギー価格が年々上昇するのがもはや当たり前に。政府の規制は裏目に出るし、消費者は惰性で大企業の言いなり>

アメリカの右派は英語の中でも最も恐ろしい言葉はこれだと言っている――「私は政府の人間で、助けに来た」(ロナルド・レーガンは大統領就任演説で最も恐ろしい言葉としてこれを挙げ、「政府は問題の解決策ではなく、政府こそが問題だ」と訴えた)。明らかに、これはとんでもない誇張だが、時に僕は、政府が悪い事態をさらに悪化させていると考えずにはいられなくなる。

イギリスの人々を非常にイラつかせている問題の1つが、インフレ率を上回ってエネルギー価格が年々上がり続けていくのが目に見えていることだ。誰しも反感を抱いているが、あまりに定期的に上がっていくからみんなすっかり慣れてしまっている。11月に雨がたくさん降ることを怒っても意味がないようなものだ。

ついに政府は、何らかの手を打つことにした。民間エネルギー会社が消費者に課すことができる上限を定めた「プライスキャップ(価格上限規制)」だ。これはもともと、2015年の総選挙前に労働党が提唱していたもの(実現不可能だ、と保守党は鼻で笑っていた......2018年に保守党自身が採用するまでは)。

問題は、主要エネルギー企業「ビッグ6」が全て、この「上限」を、これ以上は許容できない最終的な数字ではなく、狙うべき「目標」と捉えていること。ある企業は、今春に10.5%の値上げを行うことを今日、発表した(最新のイギリスのインフレ率は1.9%)。これはつまり、最近政府が発表した来年の上限と全く同じ数値に到達してしまったということだ。この企業はその後、政府の規制に「ただ従っただけ」と説明して消費者の怒りをそらそうとした。

その間に、エネルギー会社の乗り換えを狙う賢明な消費者が飛びついていた安価な料金の会社まで、料金を大幅に引き上げている。なぜなら彼らはもはや「できるだけ安く」する必要などなく、高過ぎる(そしてさらに上げ続けている)企業と比べて「かなり安い」という程度にしておけば問題ないからだ。

それでも乗り換えしない消費者

明らかに、これは経済学者が呼ぶところの「完全市場」ではない。エネルギー市場の75%を握る「ビッグ6」は、元国有ガス会社1社と地方の公営電力会社5社がそれぞれ民営化されたもの。言い換えれば、エネルギー市場に新規参入の扉が開かれてから20年たっても、すさまじい数の消費者がいまだに地域の「もともとある」会社に惰性で頼っているということだ。その会社が料金を値上げしても、何万もの顧客離れを招く事態にはならない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ハイテク株に売り エヌビディア

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒続く 日銀

ワールド

トランプ氏「怒り」、ウ軍がプーチン氏公邸攻撃試みと

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦「第2段階」移行望む イスラエ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story