コラム

欧米で過激な政党が台頭する本当の理由

2017年03月13日(月)12時00分

イギリス国外の人々にとっては、ブレグジットは奇想天外な出来事に見えるかもしれない。アメリカ国外の人々が、あるいはフランス国外の人々が、極端な選択に走るこれらの国の有権者について理解に苦しむ、というのとちょうど同じ構図だ。

もう一度言っておくが、僕は政治の専門ではない。それでもブレグジットの経験を経て僕は、こうした国々の「空白地帯」に目を向ける必要があると考えるようになった。

米オバマ政権はその任期の最後の年に、最後の「大」キャンペーンとしてトランスジェンダーの子供が学校で、本人が望む性別のトイレの使用を認められるよう通達を出した。これによって、特に女の子を持つ親が心配になったのは明らかだ。さらに、そんな懸念を口にして偏狭なやつだという不愉快な非難を受けたくないのも、また明らかだろう。

それに、ただでさえ重要問題が山積するなかで、これこそが選挙で選ばれたリーダーが重点的に取り組むべき課題だ、とはとても思えなかったのではないだろうか。

【参考記事】フランス大統領選で盛り上がるオバマ・コール!

イギリスの「おめでたい穏健」の伝統

同じように、僕はヨーロッパ政治についても精通しているわけではない。でもルペンやウィルダースの躍進を見れば、同様のパターンがおのずと見て取れる。EU懐疑主義は、何もイギリスに限った話ではない。大陸ヨーロッパの人々の多くも同じ思いを抱えていたが、彼らの声が届いていなかっただけだ。ブレグジットの決定後、フランスのある閣僚が、フランスでは決してEU離脱の是非を問う国民投票など行わない、と発言したのを僕はよく覚えている(これに反論の声を上げたい人は、ルペンに投票するしかないだろう)。

オランダの有権者の多くは、(たとえEUには残りたいと思っている人でも)単一通貨ユーロには懐疑的で、ユーロはオランダに不利益をもたらした実験だと考えている。僕は今日、オランダの主流政党が、ユーロ離脱が「可能かどうかを検討」しだしたというニュースを目にした。ウィルダースは以前から離脱の是非を問う国民投票を実施すると叫んでいたから、彼のお株を奪って勢いを阻止する狙いなのは明らかだろう。

これまで一貫してEU賛成派だった主流政党は、「離脱を検討する」などと約束しているが、ユーロに懐疑的なオランダの有権者にとっては、そんなものでは生ぬるい。有権者がもっと踏み込んだ主張にどんどん引かれているのも、十分理解できる。

北欧のスウェーデンは、僕の人生の大半において、比較的人口が少なくて社会保障システムの充実した単一民族国家として知られていた。この国が、今では人口当たりの難民申請者の割合で世界最大になっている。移民の数は年間20万人に達する(人口で比較すると、日本なら年間250万人の移民を受け入れているようなものだ)。

おそらく、彼ら移民には片言のスウェーデン語を話せる人さえほとんどいないだろう。彼らは第三世界諸国の出身者に偏っていて、スウェーデン文化とほとんど関わりがない。スウェーデン移民の就職率はほかの国の移民よりも低いとの報告もある。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story