コラム

エセ「スーパードライ」に物申す

2011年03月07日(月)10時50分

 欧米人が日本暮らしをしていて何と言っても気になることの1つは、しょっちゅうおかしな英語を目にすることだろう。

 特に多いのは、服のプリント。最初のうちは、めちゃくちゃウケる。そのうちに、ただ馬鹿馬鹿しいと思うようになる(そして「日本初心者のガイジン」がそれらを面白がっているのを見ると、「君たちにとってはまだ珍しいんだね」と上から目線で見てしまう)。やがてはすっかり慣れっこになって、よほど笑えるものでないかぎり、特に気にも留めなくなる。

 イギリスに帰ってきて、今度はあちこちでおかしな日本語を目にするようになった。

 それは......「極度乾燥(しなさい)」。

 何で命令されるの? 何を乾燥しろっていうんだ? カッコで(しなさい)というのはなぜ?

「会員商な」と胸にプリントされたTシャツを着た男も見かけた。彼とすれ違ったとき、僕はこの変てこな言葉に続きがあるのかと、思わず振り返ってTシャツの背中を見たくらいだ。

 それから、「賢い天候会社」。いったい何のことだ? 賢い天候会社があるなら、「馬鹿な天候会社」もあるのだろうか。

■クールでファッション通なイメージ

 読者もご存知かもしれないが、ここ2年ほどで「Superdry――極度乾燥(しなさい)」という小さなファッションブランドがイギリス中を席巻するようになった。2000年にユニクロが日本中に広がったときのブームにちょっと似ている。このブランドを展開する零細アパレルメーカー、スーパーグループは昨年3月に新規株式公開(IPO)を果たして以来、株価が3倍に上昇、売上げは1年前と比べてほぼ倍増している。

 僕としては、お馬鹿な日本語をあちこちで見かけるのはちっとも面白くない。変な英語ならすぐにわかるけれど、外国語でしかも変てこときたら、意味不明だし笑えるどころかストレスになる。

 良心の呵責もあるかもしれない。正直言うと、僕ら英語圏のガイジンは、ヘンな英語がプリントされた服を着ている日本人をちょっとあざ笑っていたからだ。それに、イギリス人が正規の日本製品じゃなくてエセ日本ものを好んで身に着けているというのにもがっかりさせられる。

 スーパードライ・ブランドの服は品質に比べて高すぎる。デザインもありきたりだ。ほとんどがジーンズ、Tシャツといったストリートファッション。つまり、デービッド・ベッカムが好んで着そうな服だ。

 なのにこのブランドは、とびきりクールで、ごく限られたファッション通のもの、というイメージで通っているのも気に食わない。実際にはそこらじゅうにあふれているのに。近頃では、どこのパブに入っても必ず、「極度乾燥(しなさい)」の服を着たヤツが最低でも2人はいる。

■パクリはどちらだ?

 僕のイライラが怒りにまで達したのは、夕刊紙イブニング・スタンダードの「提灯記事」を読んだときだ。スーパーグループの創業者3人(今や大富豪だ)のうちの2人がインタビューに応じていた。1人は、自社ブランドのコピーに対しては容赦なく訴訟を起こすと息巻いていた。「わが社の法律チームは猛攻を仕掛けているよ」と話している。記事によれば、彼らは違法コピー商品に関して目下100件近い訴訟を起こしているという。

 最初にこのブランドの服を見たとき、僕はユニクロ製品の粗悪版みたいだと思った。イブニング・スタンダードの同じ記事には、彼らは「インスピレーションを求めて『グラフィックスの宝庫』である日本へと飛んだ」と書いてあった。「彼らはその日本で、ビールを飲みながら深夜まで話し合ううちにブランド名を思いついたのだ」

 まったく僕は不思議でならない。彼らはどうしてこんなにも「独創的」なブランド名を思いつくことができたんだろう? 日本でビールを飲みながら、か......。ふーむ。

「コピー」に関しては、彼らはあまり騒ぎ立てしないほうがよさそうだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、5万円達成で利益確定売り

ワールド

日米首脳きょう会談、対米投資など議論 高市氏「同盟

ビジネス

韓国GDP第3四半期速報、前期比+1.2%に加速 

ビジネス

バークシャー、KBWが「売り推奨」、バフェット氏退
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story