コラム

化石燃料を使わない時代へ ─ ただし日本以外では

2016年07月15日(金)16時00分

650万人の死に影響する大気汚染

 さらに、化石燃料を使うことによって生じる大気汚染も深刻になっている。IEAが今年6月に発表したリポート「エネルギーと大気汚染(Energy and Air Pollution)」によれば、大気汚染は全世界で年650万人の死に影響しているとされる。肺がん、呼吸疾患などを引き起こす。そのうち外気の大気汚染によって350万人、屋内のかまどや暖房などによって300万人が亡くなっている。石炭などを燃焼させることで、有害物資が出ることが一因だ。

 同リポートによれば、各国での改善はなかなか進まない。中国では、まだ大気が健康に悪い状況であるものの、ようやく少し改善しつつあるという。こうした大気汚染の面からも、化石燃料は使われなくなりそうだ。

 世界の流れは、温室効果ガスと汚染物質の排出という化石燃料の短所を許容しない社会になりつつあるのだ。

日本だけ化石燃料が目立って増えていく

 長期的視点で見ると、世界の化石燃料の使用は抑制され、特に先進工業国では抑制が進む。ところが日本では使用が増えそうだ。資源エネルギー庁が15年末に公表した資料によると、現時点で94基4180kW分の既存の石炭火力発電所がある。これらは次第に減らされる流れにあった。上記のように大気汚染、地球温暖化への配慮によるものだ。政府が2010年、石油石炭税を引き上げたことも影響した。

 ところが、状況は変わった。2011年の東日本大震災と東電の福島第一原発事故で、無計画に原発が止まった。さらに電力のシステム改革で、新規参入が奨励されることになった。

 同庁の資料によれば、石炭火力で47基2250万kW発電量の建設計画が浮上している。電力自由化によって新規参入した企業は建設費用の安い石炭火力を作ろうとしている。また原子力発電の再稼動が見込めないため、既存の電力会社も子会社などを通じて石炭火力の建設を検討している。

 日本の発電に占める石炭火力の割合は2015年に31%、天然ガスが26%だ。これをエネ庁は2030年に石炭を20%台に引き下げ、ガスを横ばいにしたい意向だ。しかし前述の調査会社ブルームバーグ・ニューエナジーファイナンス(BNF)社は、石炭火力が4割程度に増えると見込む。BNFの日本担当アナリストであるアリ・イザディ氏は「先進国の中で化石燃料が目立って増えていくのは日本だけになりそうだ」と指摘した。

 日本の政策は、「雰囲気に流されて物事を進め、決めるべき問題を決めず先送りしてしまう」ことが頻繁に起こる。残念ながら、化石燃料の使用増加の問題も、こうした状況になりつつある。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理

ワールド

米ウ協議の和平案、合意の基礎も ウ軍撤退なければ戦

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story