コラム

化石燃料を使わない時代へ ─ ただし日本以外では

2016年07月15日(金)16時00分

Carlos Barria-REUTERS

<世界の流れは、化石燃料による温室効果ガスと汚染物質の排出を許容しない社会になりつつある。しかし、日本は例外のようだ>

 化石燃料を使う時代は終わりつつあるかもしれない。
 「化石燃料が枯渇してしまう」ために、そうなると思う人が多いかもしれないが、ここ数年の技術革新とエネルギー環境の変化で、「化石燃料が使われない時代」になりつつある。私たちは、20−30年という長期にわたる変化の「入り口」に立っている。

「ディマンド(需要)・ピーク」がやってくる

 「スーパーメジャー」と呼ばれる英国資本の石油会社BPの調査部門は分析の質の高さで知られる。そのトップのジョン・デール氏は昨秋、「石油の新経済学」という講演を行った。そこで石油と化石燃料をめぐる状況が変わりつつあることを紹介している(「BPレポート:Statistical Review of World Energy」。この詳しい解説はエネルギーアナリストの岩瀬昇氏の著書『原油暴落の謎を解く』文藝春秋刊 に掲載されている)

 デール氏によれば、石油をめぐっては、これまで次の状況があった。
 1、いつか枯渇する資源だ。
 2、需要量も供給量も、調整に時間がかかる。
 3、東から西に流れる(中東から西欧、北米という意味)
 4、OPECが石油価格を安定させている。

 ところが2つの大きな変化が、状況を変えつつある。
 一つが「シェール革命」と呼ばれる動きだ。シェール層からオイル、ガスが取り出せるようになった技術革新だ。米国から2010年頃から産出が増えており、枯渇の心配は遠のいた。

 もう一つが国際的な気候変動への関心の高まりだ。昨年のパリ協定では、世界の160以上の国と地域が、温室効果ガス削減行動を行うことを誓約した。化石燃料を使うと、そのガスの中心となる二酸化炭素(CO2)が排出されてしまう。

 「これまで石油、化石燃料の供給がなくなることにより起こる『サプライ(供給)・ピーク』が懸念されていた。今後は化石燃料の使用が抑制されることで『ディマンド(需要)・ピーク』が起こるかもしれない」とデール氏は言う。

 BPは石油が枯渇する可能性は、毎年末に詳細なエネルギー見通しを発表している。2016年版は、1次エネルギー供給(エネルギー発生時点)での、各エネルギーの予想割合が示されている。化石燃料はその割合を減らしていく。

 エネルギー需要全体では各国の人口増と経済成長で、35年には今より約33%増えるが、化石燃料を使う絶対量は20年には横ばい程度になる。それでも先進国を中心に技術革新による省エネ、そして再生可能エネルギーの活用によって化石燃料の使用は抑制されるという。原子力はその使用に国際的な批判があるものの、使われ続けるとの予想だ。

004.jpg

図表 エネルギーの割合予想 出典:BP Energy Outlook 2016

 他の予測でも同じ結果が出ている。調査会社のブルームバーグ・ニューエナジーファイナンス(BNF)はエネルギーの使用量が世界で2040年には、再エネが化石燃料を逆転するという見通しを出している。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story