コラム

原発ゼロ電気は選べない──電力自由化の真実

2016年03月07日(月)16時30分

電力自由化で、再エネ電気が選べたり、電気が安くなるとは限らない。4X-image - iStock

まもなく始まる小売り自由化

「原発の作った電気ではなく、再エネの電気を使いたい。電力を選びたい」
「日本の電気は高すぎる。これは電力ビジネスが地域独占であるせいだ」

 この2つの主張が、福島第一原発事故の後、さまざまな立場の人によって語られた。そして、そうした期待を背景に、2016年4月から電力小売り全面自由化、2020年をめどにした電力会社の発送電分離が行われる。またガス、プロパンガスなども、規制緩和・自由化が進む予定だ。しかし、この2つの意見が、電力自由化によって解決するかは疑問だ。

再エネ電気が選べる「選択の自由」が広がるわけではない

 世の中のさまざまな商品サービスでは「産地表示」が普通になりつつあるが、電力での産地表示は難しい。電気は一度作ったものを蓄電池がなければ貯めることができない。そのために、さまざまなエネルギー源で発電される電力を集め、混じり合う形にして、常に一定の質、量の電気を需要家に送る「同時同量」の配電を行う。再エネ電気だけを取り出したり、原発電気を取り除いたりできる仕組みではない。

 「再エネを売る」という事業者のサービス内容を調べてみた。実際には既存の電力会社の送電網に接続し、その同時間に発電する再エネの電気を確保するというものだった。再エネは国の支援策で近年増加したと言っても、全発電量に占める割合は15年度で3%と少ない。再エネだけを供給するサービスを目玉とする事業者は現時点ではあまりない。その実施が困難だからであろう。

 そして、消費者の関心の中心は電力価格になる。自由化の先行した欧州では、フランスの原子力発電が生き残り、ドイツや周辺国に電力を供給している。既存の原発がつくる電力は安くなるためだ。自由化で原発の発電が減るとは限らない。

自由化で、電気が安くなるわけではない

 日本の電気料金は国際的に比べて高い。しかしこの理由は独占企業の価格つり上げというよりも、日本が96%のエネルギー源を輸入しているからであろう。全電力販売の6割を占める大口電力(産業用など)は1995年に、ほぼ自由化されている。それでも価格は安くはならなかった。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは156円前半でほぼ横ばい、日銀早期

ビジネス

中国万科の社債急落、政府支援巡り懸念再燃 上場債売

ワールド

台湾が国防費400億ドル増額へ、33年までに 防衛

ビジネス

インフレ基調指標、10月の刈り込み平均値は前年比2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story