コラム

台頭する中国の原子力産業 ─ 日本は「敗北」を受け入れるのか

2015年09月30日(水)17時30分

中国では、原子力発電所の建設が一気に進む Bobby Yip - REUTERS

原子力の覇権は中国に

 「原発に『賛成』『反対』」...。エネルギー・原子力をめぐって東京電力福島第1原発事故以来、このような議論が延々と続いている。もちろん国民合意を目指す議論の積み重ねは必要だ。しかし、こうした議論からすっぽり抜け落ちている論点がある。「経済」だ。

 原子力発電所は電気を作る工場だ。その製造も発電も企業活動の中で行われる。それを担う企業と産業を育てるという議論が日本であまり行われなくなった。

 日本が停滞する間に、著しい成長を遂げているのが中国だ。私の集めたニューススクラップから、中国政府と企業の直近2年の活発な活動の一端を紹介する。

 「中国政府と企業、アジア、東欧、南米で原子力輸出の広報、販売活動」(13年からの情報)
 「パキスタン、中国の支援で原子力発電所起工、中国企業受注」(13年7月)
 「中国で世界最大の原子炉が完成。出力175万kW、台山原発(広東省)で」(13年9月)
 「中仏原子力協定強化」(13年12月)
 「中国企業、英ヒンクリーポイント原発に出資、建設も受注」(13年12月)
 「中国海軍、原子力空母建造を計画(正式公表はせず)」(14年からの情報)
 「サウジアラビア、原発導入計画を発表。中国政府・企業が協力」(14年9月)
 「中国の原子力メーカーが再編。国家電力投資集団(SPI)、中国核工業集団(CNNC)、中国広核集団(CNC)3グループに」(15年6月)
 「中国企業CNNCとCNC、国産技術による安い原子炉『華龍1号』を発表。途上国輸出狙う」(15年3月)
 「経営危機の仏原子力メーカーアレバに、CNNC・CNCが出資の意向」(15年7月)
 「中国企業(CNNC)、アルゼンチンで原子炉2基受注」(15年7月)
 「東芝、不適切会計で経営危機。原子力製造子会社の米ウエスチングハウス社、英ニュージェネレーション社を中国企業が買収する観測」(15年8月)
 「中国政府、ケニアと原子力協定」(15年8月)
 「中国政府、ビル・ゲイツ氏の出資する次世代原子炉会社テラパワーと提携確認。17年にもCNNCが実験炉建設」(15年9月)

 これらは一部にすぎない。わずか2年で中国が官民一体になって、新興経済国で原子炉の販売で活発に動いていることが分かる。

 日米の参加がないことで話題になっている中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)について、その目的の一つを「『赤い原子炉』の輸出支援ではないか」と、在東京のアジア某国の外交官は分析していた。中国政府は非常にビジネスに協力的だ。中国の原子力産業は安さ、向上する技術力、そして政府の外交力を武器に、原子力発電システムの新興経済国への売り込みで着実に成果を出している。

 中国は国内でも原子力発電の拡大を計画している。15年1月時点で中国は現在23基の原発を運転しているが、15年1月時点で、現在建設中が45基、提案中が127基もあり、30年までに200基の運転開始を目指す。これほどつくる予定の国はない。「プラント建設、運用の質は経験で決まる面がある。中国の原子力の技術は必ず向上する」(研究者)という。

 中国は21世紀の原子力の覇権を、経済の側面から握るかもしれない。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ウェルズ・ファーゴ第1四半期、純金利収入が予想未

ワールド

EXCLUSIVE-トランプ氏の5月訪中、次男エリ

ビジネス

FRB利下げ27年まで延期の可能性、原油高次第=シ

ビジネス

ユーロ圏経済、基本・悪化シナリオの中間 金利政策は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍の海上封鎖に中国が抗議、中国タンカーとの衝突リスク高まる
  • 2
    高さ330メートルの絶景と恐怖 「世界一高い屋外エレベーター」とは
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ…
  • 5
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 7
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 8
    トランプを批判する「アメリカ出身のローマ教皇」レ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story