コラム

台頭する中国の原子力産業 ─ 日本は「敗北」を受け入れるのか

2015年09月30日(水)17時30分

原子力は巨大なビジネス

 原発は建設に約3000億円(炉などの主要設備。出力120万kWの中型炉の場合)、操作・管理・修繕は毎年数百億円が必要だ。原発を制すれば、その国の電力システムへの影響度を増やせる。販売に成功した国と企業は、多くの利益を得られる。

 原発を使う方にとってもメリットは多い。他電源に比べて、建設費が高いが、ランニングコストが低く、大量に発電できる。経済成長に伴って電力は必須だ。また原発は化石燃料と違って大気汚染の心配もない。もちろん原子力にはデメリットもあるが、それでも余力のある新興経済国は、原子力の活用に関心を向けている。

 いっぽう日本の原子力メーカーはこの2年、目立った動きが少ない。トルコで全4基の新規原発計画のうち、日本企業の連合体が2基を受注した程度だ。中国勢に日本勢は国際入札で負けている。

 2010年ごろから「原子力ルネッサンス(復興)」という言葉が、各国で使われた。日本には東芝、日立、三菱重工という原子炉をつくれるメーカーが3社ある。東電、関電などは原子力運用のノウハウの輸出体制づくりをしていた。その利益を享受できるという期待があった。

 ところが福島事故で状況は激変した。電力会社は市民の抗議への対応、めまぐるしく変わった政策と規制への対応に忙殺された。メーカーもそれに巻き込まれた。混乱は今でも続いている。理由の一つは、民意に右往左往する政治と行政の動揺だ。日本の政策は原子力を盛り立てるのか、原発ゼロを目指すのか、事故から4年経過した今でもあいまいなままだ。

 日本のどの産業も、国際競争でかつての優位を失って厳しい状況に陥っている。原子力は日本が優位性を持つ数少ない産業だった。強い産業の生み出す富は、めぐりめぐってその国の人々を豊かにする。原子力は製造、発電を適切に使えば、日本社会に豊かさをもたらす産業であるはずだ。それが今、停滞している。さらにそれを憂慮する声も広がっていない。

 福島事故から4年が経過した。検証と反省の上に冷静な議論を始めてもいいころだ。「産業としての原子力」の価値を、考え直すべき時ではないだろうか。このままでは中国に日本は原子力競争でも、敗れてしまう。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

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