コラム

なぜEUは中国に厳しくなったのか【後編】3つのポイント=バルト3国、中露の違い、ボレル外相

2021年07月09日(金)20時49分


3月2日、EUは野党のナワリヌイ氏の判決をめぐり、ロシアの4人の政府関係者に対して制裁を発動し、2020年に採択された「グローバル人権制裁制度」を初めて使用した。アメリカも同日、同様の制裁措置を発動した。

EUは、人権問題の武器化において米国に追随しているが、北京に懲罰的な措置を講じること自体が、ブリュッセルにとって深刻な逆効果になることを恐れていると、サイ部長は述べた。そして、アメリカに追随することで北京の反応から身を守ることができると期待していると語った。


アメリカに追随することで、EUは一つのことを忘れてしまった。中国とアメリカの報復合戦は、真剣に検討した結果であり、どのような結果になっても、世界を震え上がらせる結果をもたらすだろうと、サイ部長は述べた。

北京はEUへの対抗措置を講じる際に、それほど多くの結果を考慮しないだろうし、中国が行動を起こせば、EUははるかに多くの苦痛を、いっそう高いコストで被ることになるだろう、とサイ氏は警告した。

一言で言うのなら、完全にEUをなめている。見下している。弱いものには徹底的に高慢な態度をとる、弱さを攻める。さすが、中国数千年の独裁国家は、年季が違うと感じさせる。

それに、アメリカが本気を出すことを恐れているくせに、アメリカが本気を出したら勝てるほど中国って強かったっけ、とも思う。それにパワーゲームだけではなく、中国がアメリカと最も異なるのは、文明の伝播力をもっていないことだ。

確かに、指摘は鋭い(正しい)と思わせる部分はある。でも、そこまで欧と米の分断に自信があるのか、不思議でもある。そうではなく、欧米の一致団結を恐れていることの裏返しなのだろうか。

おそらく、中国政治は「他国と価値観でつながる深い絆があって、一致団結する」という同盟が理解できないのではないだろうか。長い中国の歴史にあるのは、力による支配と被支配、上下関係だけに見える。冷戦下で、共産主義ブロックにいたことはいたのだが・・・中国人に「人権」「市民の権利」をいくら説いても全く理解できないのと同じで、知らないものは知らない。そんな感じがする(理解できないのは中国人だけではないが)。

余談だが、これが相手では、韓国はさぞかし苦労していることだろう。常々筆者は、何十年か先に明らかにされるような、国家を揺さぶる根本的な脅しを、習近平氏は文政権に陰でかけているのではないかと疑っている。日本はどうだろう。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:アフリカに賭ける中国自動車メーカー、欧米

ビジネス

中国、デフレ圧力解消へ規制強化方針 習氏が党経済政

ビジネス

米利下げ、年内3回にゴールドマンが引き上げ 関税影

ワールド

米上院、減税・歳出法案審議 19時間継続もめどたた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 6
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story