コラム

なぜEUは中国に厳しくなったのか【後編】3つのポイント=バルト3国、中露の違い、ボレル外相

2021年07月09日(金)20時49分

ともあれ、このレポートを読んだヨーロッパ人が不愉快極まりないのは、想像がつく。この中国の見下した態度は、今後欧州にどのような影響を与えるのだろうか。

3、存在感を示すボレル外相

最後に注目したいのは、ジョゼップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表(以下、ボレル外相)の活躍ぶりである。

ボレル外相といえば、前述したあの発言。「EUは力(権力)の言語を使うことを学ばなけれならない(The European Union has to learn to use the language of power.)」

外相が常々語り強調しているのが、このセリフである。このところEU行政の中で、彼の力が強い印象がある。

彼は、欧州統合の長い歴史の中で、価値観や経済、平和の構築のために結びついてきたがゆえに、力の行使に慣れておらず、顔面を打ち付けられるのにも慣れていないEUに対して、変わらなければいけないとハッパをかけているのである。

ボレルEU外相は、以前からその動向が欧州レベルで注目される人であった。彼がもつ政治の経歴と思想に負うところが大きい。

彼が2018年にスペインの外相に就任したときは、仏・独・伊・英の主要紙が合同で彼にインタビューしているほどの大物だ(こういう合同インタビューは時折ある)。

◎ボレル外相の方針を述べた全スピーチはこちら(2019年10月7日。外相指名後で、欧州議会の承認前の、外交委員会での公聴会)

まずは経歴である。

ボレル外相は74歳。バイデン米大統領の78歳よりは年下だが、十分な政治経歴をもっている。彼は2004年から07年まで欧州議会の議長だった。

さらに、先立って2001年には、「欧州の未来に関する条約」という機関に参加する、スペイン議会代表に任命された。 この機関は、欧州憲法の草案を作成することが目的のもので、最終的には現在のリスボン条約につながっている。このように、彼はEUの建設に関わる大きな仕事に携わってきた。

このことは、デアライエン委員長とミシェル理事会議長の二人と、対照をなしている。

ボレル外相は、国を代表する政治家としてEUに携わるだけではなく、EU組織内の要職を経験してから現職に就いた。前のユンケル委員長もそうだった。

それに比べて、デアライエン委員長とミシェル理事会議長の二人は、そのような経歴が見当たらない。ということは、それだけコネクションや知識が低いということだ。能力はさておき、EU経歴の点では、ユンケル前委員長やボレル外相に比べると、いまひとつに見えると言わざるを得ない。

そして、この二人は関係がうまくいっていないことが、外に見えるレベルでわかってしまっている。どちらがEUの代表かと争っているという意味だが、これは二人ともEU内経歴がいまひとつであることと、大いに関係があるように思える。

「ソファーゲート」事件は象徴的な例である。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏企業への補助金削減、DOGEが検討すべき=

ビジネス

消費者心理1.7ポイント改善、判断引き上げ コメ値

ビジネス

仏ルノー、上期112億ドルのノンキャッシュ損失計上

ワールド

上半期の訪タイ観光客、前年比4.6%減少 中銀が通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story