コラム

なぜEUは中国に厳しくなったのか【後編】3つのポイント=バルト3国、中露の違い、ボレル外相

2021年07月09日(金)20時49分

このように、どんどん問題がエスカレートしてきている。ロシア人とは全然異なる。まるで野蛮人を相手にしているかのようなのだ。

特に問題になったのは、北京から制裁を受けた5人の欧州議会議員の中には、対中関係で大きな影響力を持つドイツのグリーン・ラインハルト・ビュティコファー中国議会グループ議長も含まれていたことだ。

中国共産党によれば、「ビュティコファー氏は、中国が新疆ウイグル自治区や香港の問題を処理していることを言い訳にして、頻繁に中国を批判し、中国とEUの投資協定を妨害している」から制裁リストに加えたのである。

このことが欧州議会で5月21日、中国との投資協定の凍結を「賛成599、反対30、棄権58」の圧倒的多数で採択した、最も大きな理由ではないだろうか。議員に対する中国の制裁行為は、党派を超えて、欧州議員達を怒らせたのだ。

中国は、アメリカとの関係が冷え込むなかで、EUとの投資協定の実現を切望していた。そもそも、一帯一路の終点はヨーロッパである。欧州議会をなめたために、習近平の一帯一路政策は、根本から見直しを迫られる可能性がある。

中国のなめきった態度

中国とロシアは、その関係の密接さを強調し始めた。

前編で解説したように、EUの頭の中にあるのはむしろロシアであり、ロシアと中国の結託を警戒している。しかし、ロシアと中国がそれほど一枚岩なのかは、まだよくわからない。

ロシアは、EUに対してもアメリカに対しても、関係の一層の悪化は望んでいないようだ。バイデン大統領との会談も成功させた。

対して中国は、アメリカには強気に出ては見せても、関係の悪化を望まないシグナルを同時に送っているのに、EUに対しては態度が異なる。

3月22日の中国共産党の『環境時報』は、以下のように伝えている


取り残されと感じているEUは、中国とロシアに対して「人権問題」での制裁を求めることで、政治的な存在感を強調したいと考えている。EUは、人権を超大国間の競争に参加するために使用できる武器と見なしているためだ、とサイ部長(the China Institute of International Studiesの欧州部部長)は言った。ワシントンほどの財政力や軍事力を持たないEUにとって、人権は最も便利で有利な武器だと認識していると付け加えた。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

9月の米卸売在庫、0.5%増 GDPにプラス寄与か

ワールド

タイ首相、議会解散の方針表明 「国民に権力を返還」

ワールド

米印首脳が電話会談、関税導入後3回目 二国間関係な

ワールド

トルコ中銀が150bp利下げ、政策金利38% イン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 4
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 8
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story