コラム

なぜEUは中国に厳しくなったのか【後編】3つのポイント=バルト3国、中露の違い、ボレル外相

2021年07月09日(金)20時49分

確かに、どう出てくるかわからない怖さがロシアにはあるが、ここでより重要なのは「同等性」という発言のほうだと思う。

つまり、目の戦いなら目だけ、歯の戦いなら歯だけ、それ以上のことはして来ないという意味だと言えるだろう(これは古代バビロニアのハムラビ法典の記述だが、これが本来の意味でもある)。

プーチン大統領は、民主主義的な仮面をかぶることを知っている。

クリミア併合の時は、クリミアで住民投票を行い、「住民の意志でロシアに所属した」という形となった。

住民投票の結果の正当性には批判が絶えないが、それでも「ロシア帰属」という住民の意志がまったくのでっちあげとは言えない土壌が、クリミア半島にはある。

また毎年恒例で、「プーチンとの直接対話」という生放送番組に登場して、国民の質問に答えている。事前に寄せられたり、スタジオの観客や中継で結ばれた各地の人たちから聞かれたりするという形式だ。質問は100には届かないものの大変多く、4時間ぶっ続けで答えたこともあるという。

それに、ロシアで体制批判のデモは行えない訳ではないし、不完全とはいえ選挙も行われている。

筆者は常々「プーチン大統領は、ヨーロッパ人でいたいのだ」と感じてきた。しかし最近は強権化と反動化が強まり、それが欧州を不安に陥れている(プーチンも年取ったのかもしれない)。

一方、中国はどうだろうか。

EUは、ウイグル人の大規模な弾圧に関与した新疆ウイグル自治区の中国政府関係者4名に制裁を加えた。ところが北京はその報復として、10人のヨーロッパ人と、4つの機関を制裁するという2倍、3倍もの仕返しに出てきた。

10人のうち5人は欧州議員、あとの5人は、2020年6月に設立された「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC:Inter-Parliamentary Alliance on China)のメンバーである。これは、北米・欧州・オセアニア・日本・ウガンダの19カ国の議員が参加している(日本からは中谷元議員と、山尾志桜里議員が参加)。

また、フランスの財団の研究者の一人、つまり一般市民が、ツイッターで中国体制を批判した。すると、なんと中国大使館が乗り出してきて「小さなパンチ」とか「狂ったハイエナ」などと侮辱してきた。

外交官としてあるまじき行為だったために、フランスの外交責任者が勤務時間中に「外交ルールを思い出してもらう」ために、在仏中国大使を呼んだ。しかしスケジュールを理由にすぐには応じなかった。と今度は、北京のEU大使が真夜中にいきなり呼び出された。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、冬の嵐で100万戸停電 1万便が欠航

ワールド

ベセント米財務長官、インドに対する追加関税撤廃の可

ワールド

米、嵐で16万戸超が停電・数千便が欠航 異常な低温

ワールド

市場の投機的、異常な動きには打つべき手を打っていく
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 10
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story